自己免疫疾患は、自己応答性T細胞により種々の臓器が傷害される疾患である。その発症には 遺伝的要因や環境要因が複雑に関与するため、分子機序は未だ不明な点が多く、根本的な治療法は確立されていない。ゲノム解析技術の発展に伴い、自己免疫疾患の発症と関連する一塩基多型(SNP)は多数報告されている。複数の自己免疫疾患の発症と関連するSNPは、CD4陽性T細胞の機能制御分子に多く認められる。これら疾患感受性SNPが自己応答性CD4陽性T細胞を過剰活性化させる分子機序を解明することは、種々の自己免疫疾患に共通する病態形成機構を見出し、その共通機構を標的とした新規治療戦略を確立するための喫緊の課題である。 DNAM-1は、T細胞やNK細胞の活性化に関与する免疫受容体である。DNAM-1のG307Sアミノ酸変異となるSNPは9種類の自己免疫疾患の発症と関連するが、G307S変異型DNAM-1が自己免疫疾患の病態形成を促進する分子メカニズムは解明されていなかった。 本研究では、G307S変異がDNAM-1の機能獲得変異である可能性を見出した。G307S変異型DNAM-1は野生型DNAM-1よりもCD4陽性T細胞の炎症性サイトカイン産生及び細胞増殖を促進させた。また、G307S変異はDNAM-1とリン酸化酵素Lckの会合を増加させ、DNAM-1のシグナル伝達に関与するリン酸化Tyr322を増大させた。更に、G307S変異型DNAM-1を発現させたミエリン抗原特異的CD4陽性T細胞をマウスへ養子移入することで実験的自己免疫性脳脊髄炎を誘導したところ、野生型DNAM-1を発現させたミエリン抗原特異的CD4陽性T細胞よりもその病態を増悪させた。以上の結果から、G307S変異型DNAM-1は自己免疫疾患の病態形成を増悪させる疾患感受性SNPであることが示唆された。
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