世界的流行を起こした新型コロナウイルス感染症 (Coronavirus disease 2019 : COVID-19 )は、Severe acute respiratory syndrome coronavirus 2 (SARS-CoV-2) によって引き起こされる呼吸器感染症である。SARS-CoV-2は感染・増殖を繰り返す中で、ウイルスゲノムに塩基変異を蓄積しながら流行を続けている。スパイクタンパク質、特にS1領域は感染やワクチンによって誘導される中和抗体の主要な標的部位であり、スパイクタンパク質に導入されたアミノ酸変異の一部が抗原性変化に寄与することが知られている。しかしながらウイルスの抗原性変化に寄与するアミノ変異の出現機序については未解明の部分が多く、これら抗原性変化に寄与するアミノ酸変異の同定・解明が今後のワクチン開発において重要な知見となる。 東京大学医科学研究所の研究用微生物安全委員会で、研究内容の審議・承認を受け研究を実施した。臨床分離株をSARS-CoV-2感染後もしくはワクチン接種後血漿の存在下で継代を繰り返すことで、抗原性変化を有する株の取得を試みた。30~50回の継代の結果、スパイクタンパク質に多様なアミノ酸変異を有する株を多数獲得したが、オミクロン株の様に多数の塩基変異を蓄積した株は確認されなかった。抗原性変化に関与するアミノ酸変異は、S1領域のN-terminal domain (NTD)領域やReceptor binding domain (RBD) 領域のみでなく、S2領域においても起こることを明らかにした。また、今回獲得した抗原性変異株の感染・ワクチン接種後血漿の中和活性からのエスケープの程度は検体間で異なり、ヒトにより抗体認識する主なエピトープが異なることが示唆された。
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