研究課題/領域番号 |
19J00055
|
配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
大門 大朗 京都大学, 京都大学防災研究所, 特別研究員(CPD)
|
研究期間 (年度) |
2019-04-25 – 2024-03-31
|
キーワード | 災害ボランティア / 自然災害 / 災害復興 |
研究実績の概要 |
採用1年目の本年は、災害対応期と防災期の架橋を目指し、災害前/後(研究1・2)のコミュニティでの実践を進め、3点の成果が得られつつある。第一に、東日本大震災で見られた、助けられたのに助けられなかった(見殺し)、助けに行ったために亡くなってしまった(共倒れ)という後悔感情を反映したハザードマップ(リグレットマップ)を、南海トラフ巨大地震の想定2地域で作成した。第二に、災害後のコミュニティにおける憚られる語りを「集合的なトラウマ(外傷)」として解釈し、着目する重要性を指摘した。例えば被災前コミュニティと比較し、津波による死者や命を巡る議論は被災後には語りづらくなっており、コミュニティ全体として、次の災害の防災に向き合うことができず、結果的に津波常習地であるにもかかわらず災害時のレジリエンスが低くなっていることである。第三に、東日本大震災の被災地の一つである岩手県野田村に2020年2月より長期滞在を開始し、復興の実践活動・事例研究を展開している。 また、採用1年目の本年は、海外での研究を行うために、中国・四川地震での調査を前倒しし、災害団体・ボランティアの文化間的差異に着目した事例研究を行った。また、集合的なトラウマの先進的な研究であるErikson, K. "Everything in its Path."を訳出・精読し、理論的検討を図るとともに、その被災地である米国ウェストバージニア州ローガン郡に滞在し、当時の被災者15名ほどにインフォーマルな形でのヒアリングを行った。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本特別研究員の本年度の研究は、期待以上の進展があったといえる。本年度は、採用初年度として、被災地・被災想定地におけるフィールドワークの展開、「集合的トラウマ」に関する文献・事例研究の深化、中国四川省での事例研究を開始することができた。被災地の野田村では半年の滞在を行う実践研究を展開し、高知県黒潮町には6回・22日間の滞在研究を行うなど、現場に根付いたボトムアップ型の実践研究を展開できている。中国四川省・四川地震をきっかけとする災害団体(新安世紀教育安全科技研究院等)とのネットワーキング、米国ウェストバージニア州・バッファロークリーク洪水災害の被災者へのヒアリングなど海外渡航に向けた国際研究も前倒しし、推進することができている。国内誌3報の研究論文の執筆、デラウェア大学(米国)でのセミナー実施など、成果・発信ともに積極的な研究活動を行ったと言える。このように、本特別研究員の本年度の研究は、当初の期待を上回る成果をあげたと考えている。
|
今後の研究の推進方策 |
本年度は、昨年からの研究1・2を継続するとともに、海外での調査を行う研究3を推進する。アメリカ(ハリケーン・カトリーナを予定)および中国(四川地震2008年)の被災地である四川省の事例に着目し、災害前の状況から、災害直後、中長期の復興期にかけて、草の根的な人々の復興への寄与・新たな組織の出現と災害サイクルへ影響について、文献調査・インタビューを通じ明らかにする。具体的には、以下の通りである。ただし、コロナウイルスの影響で、渡米に関して予定がずれ込んだ場合、理論研究を中心に行う予定である。 研究3 文化の異なるコミュニティ:アメリカ・中国の支援枠組みの違いから 研究1・2から明らかになった知見をもとに、文化の異なるコミュニティであるアメリカと中国での比較研究を行う。具体的な事例として、アメリカにおいては、ハリケーン・カトリーナ(2005年)の被災地であるニューオーリンズ、中国においては、四川地震(2008年)の被災地である四川省の事例に着目し、災害前の状況から、災害直後、中長期の復興期にかけて、草の根的な人々の復興への寄与・新たな組織の出現と災害サイクルへ影響について、文献調査・インタビューを通じ明らかにする。 他国でのインフォーマルな領域で活動する被災地住民・ボランティアに着目し、日本国内との違いについて明らかにする。その際、政府機関やNGO・NPOなど公的・フォーマルな領域での活動の影響についても包括的に分析を行い、災害の各フェーズにおいて、インフォーマルな領域とどのように影響・相互作用したのかについても分析を行う。なお、申請者は、アメリカの事例においては、デラウェア大学に長期滞在し、研究を進める。また、中国の事例においては、災害復興における組織分析の共同研究を継続し、申請者は、特にボトムアップ型の活動の社会心理学的な分析を担う予定である。
|