研究課題/領域番号 |
19J00055
|
配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
大門 大朗 京都大学, 京都大学防災研究所, 特別研究員(CPD)
|
研究期間 (年度) |
2019-04-25 – 2024-03-31
|
キーワード | 災害ボランティア / 復興 / 防災 / 贈与論 / 社会心理 / グループ・ダイナミックス |
研究実績の概要 |
◯本年度の研究(3年目) 「被災者対支援者」という非対称な関係が強調されがちなトップダウン型・フォーマルな領域(行政組織・災害団体など)に対し、災害時に草の根的に現われる人々の力の分析を通じ、災害時におけるボトムアップ理論を構築することを目的とし、研究を行っている。本年度は、海外の事例研究である研究3を中心に、シミュレーションを行う研究4と各研究を総合する研究5の準備を進めた。 ◯本年(3年目)の概要 ・研究3(海外の事例研究) コロナ禍の影響で現地に伺うことが今後も困難であると判断し、現地調査を取りやめ、文献調査とオンラインインタビューを中心とした研究に切り替え、研究を行った。第一に、フィールドの事例だけでなく、広く防災意識と行動の乖離に着目し、2010年から発刊された国内外の文献レビューを行い、日本の理論の整理と国際的な文献の整理を行った。第二に、パンデミックで被害を受けた日米の小規模事業者にオンラインインタビューを実施し、地域経済の草の根的な人々の行為の違いについて、日米の違い、自然災害との違いから考察を深めた。 ・研究4(シミュレーション) 日米の災害後のボランティア(組織)の社会的ネットワークの違いから、支援量を最大化するゲームとして、結束型・橋渡型の2種類のソーシャル・キャピタルの質的違いと全体を調整する組織の有無を用いて、支援を最適化する基礎的なモデル作成を行った。また、被災地でのニーズ発生とボランティアの完了をGISを用いて表現し、支援の偏りを分析するための基礎的なモデル構築を行った。 ・研究5(研究の総合・理論化) 集合的トラウマとソーシャル・キャピタルについて、いずれも、ウェストバージニアを嚆矢とする概念であることを踏まえ、目的指向性と共同体志向性の観点から整理した。これらを踏まえ、認知・環境・行為の3要素からなる生態学的アプローチのモデルを構築した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の研究は、おおむね順調に進展していると言える。本年は、採用3年目として、新型コロナウイルス感染症の影響を加味し、現地の被災地に伺うことが今後も困難であると判断し、研究計画を大きく変更した年であった。そこで米国での現地調査を取りやめ、文献調査(防災意識のレビュー)とオンラインインタビュー(日米の小規模事業者への調査)を中心とした研究に切り替え、研究を行った。以上から、研究方法の変更はあったものの、当初の研究ビジョンであるボトムアップ型の災害・防災実践を提案する本研究は概ね順調に進んでいる。なお、昨年、一昨年に実施した研究1・2(日本の事例研究)の成果を「IJDRR」国際誌に、研究3の成果として、日本の防災行動の理論的レビューを「Natural Hazards Review」に投稿した。また、日本の文献の可視化を行うために、デラウェア大学災害研究センターが抱える災害専門の図書館への日本語の防災研究のデータベース化・オンライン化を進めている。なお、研究3で行ったコロナ禍での事業者の対応は、2022年4月に一般向けのセミナーを開催し、成果を発信する。加えて、研究2・3の内容を国内学会(4報)・セミナー(1報)および国際学会(1報)で発信した。
|
今後の研究の推進方策 |
本研究は「被災者対支援者」という非対称な関係が強調されがちなトップダウン型・フォーマルな領域(行政組織・災害団体など)に対し、災害時に草の根的に現われる人々の力の分析を通じ、災害時におけるボトムアップ理論を構築することを目的とし、研究を行うものである。研究4年目は、海外の事例研究である研究3、ネットワーク分析・シミュレーションを行う研究4を主に進める。 ◯研究3:日米の比較研究 災害専門の図書館をもつ申請先大学のデータベースを用い、アメリカにおける質的に異なる災害(パンデミック)における、草の根的な人々の行為の違いについて、日本と米国の違いを整理する。さらに、1年目で明らかになった被災地の事例研究、2年目に得られた集合的なトラウマを構成する要素を踏まえ、草の根的な人々の行動の違いについて明らかにする。以上の研究については、日米におけるパンデミック時の小規模事業者の適応の事例研究の成果をIJMEDへ投稿し、その成果について、日本・米国の研究者を招聘したオンラインセミナーを通して発信する。 ◯研究4:シミュレーション 昨年構築したモデルをもとに、2つのシミュレーションのプログラミングを行う。第一に、結束・橋渡型の2種類のソーシャル・キャピタルと全体を調整する組織(ボランティアセンター)の有無を用いて、支援を最適化するモデルとその均衡ポイントの同定を行う。第二に、被災地でのニーズ発生とボランティアの完了をGISで表現し、支援の偏りを時系列で分析する。以上から、草の根的な人々のダイナミックスについてエージェント・ベースド・モデルを用いてシミュレーションし、最適な支援構造を明らかにする。 ◯研究5:総合・理論化 防災意識と行動の乖離に着目し、減災につながるための環境を構築するための生態学的アプローチについて、国内・国際誌のレビューと用いられる理論の整理を行い、各研究を総合し理論化する。
|