研究課題/領域番号 |
21J23240
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
小柳 亜季 京都大学, 教育学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2021-04-28 – 2024-03-31
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キーワード | 言語教育 / 言語意識(language awareness) / 多言語共生 / 英国 |
研究実績の概要 |
本研究は、外国につながる子どもを含めた日本の教育現場において、母語教育と外国語教育の連携も視野に入れた上で、どのような言語横断的な言語教育のカリキュラムを提示できるかを主な問いとしている。特に英国の言語意識運動に注目し、この中で行われてきた言語教育がどのように言語運用能力と、他言語への寛容性の双方に資するものになるのかを研究課題としている。今年度は、言語意識運動の中でも、第一人者であるホーキンズ(Hawkins, E.)の教科「言語(Language)」のカリキュラム論を検討した。先行研究ではホーキンズの教科「言語」が、子どもたちにどのような変容をもたらすことを目指していたのかが不明瞭であった。よって今年度は(1)ホーキンズが教科「言語」に具体化されたホーキンズの問題意識を明らかにすること(2)ホーキンズの教科「言語」の理念が、具体的にどのように教育目標や教材、教育方法として具体化されているかを明らかにすることの2つを行った。『京都大学教育学研究科紀要』では、英国の当時の状況から、ホーキンズが、言語教育として、子どもの言語発達を支援する親としての役割を育てることも問題意識として持っていたこと、つまり個人の能力育成のみならずコミュニティ全体の育成をも目指していたことを示した。日本カリキュラム学会での発表においては、教科「言語」が、言語への分析視角を獲得することを通して他言語への寛容性を育成しようとしていたことを、ホーキンズの著した教材の具体例もふまえて確認した。日本の学校との共同研究としては、京都市立堀川高等学校英語科と取り組んだ。日本における言語教育の目指すべき方向性を模索するため、英語科における段階的な目標設定のあり方について研究を進めた。この成果は、『教育方法の探究』にて公表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度は、論文執筆2本、学会発表1回、出版物(共著)1本を行った。英国の言語意識運動に関する論文1本と学会発表1回は、上述したように、主に言語意識運動の牽引者であったホーキンズ(Hawkins, E.)の言語教育論に着目して進めた。当初の計画の際に想定していた、外国語教育の目標設定に関する議論と、言語意識運動の間の関係性に直接的に言及するものではないものの、当時の英国において総合制中等学校が増加し、さらに移民が増加する中での教育言説を把握することにつながった。また、ホーキンズの教科「言語」の構想に協力していた人物へインタビューや聞き取りを行うことができたことで、より一層ホーキンズのカリキュラム論を理解することにつながった。よって、上記のように評価した。
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今後の研究の推進方策 |
先述の通り、本年度は英国で提起されてきた言語意識運動の中でも、特に言語を分析する認識枠組みを獲得するために構想された教科「言語」のカリキュラム論に着目し探究を深めた。今年度の研究成果を土台として、今後は、ホーキンズの論を批判的に継承した「批判的言語意識」の論者に着目する。「批判的言語意識」の論者たちは、単に言語を分析的に捉えることは、社会構造に起因して生じている不平等を受容させることにつながると批判している。よって、彼ら・彼女らがいかなる言語教育カリキュラムを提唱したかを、「言語運用能力と他言語への寛容性の双方に資する、すべての子どもたちのための言語教育とはどのような形なのか」という本研究の問いに照らし合わせながら検討していきたい。今年度、英国からの資料収集を行う際に、コロナウイルスや国際情勢の影響によって大きな制限を受けた。必要な資料を得るために、英国に実際に赴くことも視野に入れながら、研究を進めていきたい。
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