最終年度では、昨年度から引き続き室温でのモデル電極反応として、(1)アルカリ性電解液中におけるPt(111)電極上の酸素還元反応(ORR)機構、および(2)アルカリ性電解液中におけるAu(111)電極上の水素発生反応(HER)機構の解析を実施した。また、低温下における固体電解液を用いた電気化学測定に関する研究では、セル設計の見直しおよび高濃度電解液の利用によって電解液温度の安定化と高い電気伝導率の達成を目指した。 (1)ORRに関する研究では、前年度までにLiまたはKイオンを含む電解液を用いて、電解質カチオンの選択が外圏型および内圏型ORR機構の選択性に影響することを明らかにした。最終年度では、新たにNaおよびテトラメチルアンモニウムイオンを用い、カチオンの親水/疎水性と外圏/内圏型機構の選択性との相関を系統的に評価した。その結果、Liのような親水的なカチオンほど外圏型機構を促進することがわかった。 (2)HERに関する研究では、これまでにKイオンを含む電解液中において過電圧が大きくなるにつれてプロトン移動機構が古典力学的過程から量子力学的過程へと遷移することを明らかにした。最終年度では、赤外分光法を用いて反応中における電極表面の水分子構造を分析することで、カチオンがプロトン移動機構に影響を与えるメカニズムを解明した。その結果、Kイオンは高過電圧下において電極表面に容易に接近し、水分子間の水素結合ネットワークを乱すことで量子力学的プロトン移動に適した水分子の二量体を形成することがわかった。 低温電気化学セルに関しては、前年度までの窒素ガスフローに加えてリボンヒータを用いた温度制御機構を導入することで、電解液凍結温度付近においても高い温度安定性が得られた。今後は、開発した低温電気化学セルを用いて、固固界面における電極反応機構解析に展開する。
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