研究課題/領域番号 |
22KJ3238
|
配分区分 | 基金 |
研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
田中 慶大 国立研究開発法人理化学研究所, 開拓研究本部, 基礎科学特別研究員
|
研究期間 (年度) |
2023-03-08 – 2025-03-31
|
キーワード | 単分子磁石 / カルベン |
研究実績の概要 |
単分子磁石は超高密度記録媒体の開発につながるため魅力的な分子材料であるが、表面上での単分子磁石の研究はあまり進んでいない。主な理由として、バルクで合成した単分子磁石を基板上に蒸着させることが難しいこと、単分子磁石の磁性が基板表面との相互作用によって変化してしまうことがあげられる。そこで、これらの問題を回避するためにあらかじめ単分子磁石を表面上で合成するというアプローチをとる。具体的には、両端にN-ヘテロ環状カルベン(NHC)という配位サイトを持つ分子(以下ビスカルベン)を用いて、一方を基板に配位させ、もう一方を単一金属原子の蒸着サイトとし、金属錯体を組み上げていく。本年度は、目標とする金属錯体の土台となるビスカルベンを金属単結晶基板表面に蒸着させ、分子配向に関して、走査トンネル顕微鏡(STM)を用いて調べた。イソプロピル置換基を窒素上の置換基として持つビスカルベンを、被覆率を変化させて金単結晶基板に蒸着させたところ、蒸着量に関わらず、長い分子鎖を形成することがわかった。なお、被覆率を上げても、密な分子膜は形成されず、分子鎖同士は常に、一定の間隔をもって整列した。銀単結晶基板上でも同様に、被覆率によらず、密な分子膜は形成されなかった。一方、イソプロピル基よりもかさ高いtert-ブチル基を窒素上の置換基として持つビスカルベンは、短い分子鎖も形成するが、密に分子が集まったアイランドも形成することが観測された。さらに、基板をアニーリングすることにより、STM像の約半数が直立したビスカルベンの3量体を形成した。置換基と基板温度を最適化することで、分子配向を制御できることを示唆するデータが得られた点で本成果には意義がある。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
金基板上でのNHC(モノカルベン)の配向方向はよく研究されており、イソプロピル置換基を窒素上の置換基として持つNHCは、被覆率が高い場合に基板に直立することが知られていたので、ビスカルベンも同様の振る舞いを示すと予想していたが、被覆率、基板温度によらず、分子が基板に横たわった分子鎖を形成した。このため、異なる基板、異なる置換基を試す必要があり、予想以上に時間がかかってしまった。
|
今後の研究の推進方策 |
2年目でイソプロピル基、tert-ブチル基を窒素上の置換基として持つビスカルベンを合成し、Au(111) 、Ag(111)上に蒸着させることに成功し、イソプロピル置換基を持つビスカルベンは条件によらず、分子鎖を形成し、tert-ブチル基を持つビスカルベンは条件によっては直立することが見出された。高エネルギー研究機構でのシンクロトロン放射光を用いた偏光依存NEXAFS実験(予備実験)から、イソプロピル置換基を持つビスカルベンは基板に対して横たわっており、tert-ブチル基を持つビスカルベンは基板に対して横たわっているものと、直立するものがあることが予想され、STM像から推測される配向と一致した。これらの結果を踏まえて、今年度は以下を目標とする。 tert-ブチル基を持つビスカルベンに関して、直立したNHCが観測されたことから、前年度にプレップチャンバに導入した熱電対を用いることで、分子配向の温度依存性を詳細に調べ、直立した分子数が最大になる条件を見出す。得られた直立分子に対してランタノイド単原子を蒸着させ、STM(イメージング、微分コンダクタンス測定)により確認する。
|