本研究は,生体膜リン脂質の(どのような)変化が生体機能に影響するのかを検証することを目的とした。特に,感覚受容経路における脂質-タンパク質相互作用に注目する。 研究期間中に,神経障害性疼痛モデルマウスを用いて,脊髄および後根神経節のリピドミクスを実施した。両組織においてさまざまな脂肪酸代謝物量が劇的に変化することを見出し,国際科学誌に発表した。また,脂質メディエーターであるPAFが増加し,神経障害性疼痛に関わること,また,その由来はマクロファージやミクログリアであることを見出した。さらに,生体膜リン脂質の解析も実施したところ,後根神経節,脊髄ミクログリア,脊髄アストロサイトのそれぞれにおいて特徴的な脂質変動が認められた。それぞれに共通する変化として,アラキドン酸含有リン脂質の増加を見出し,その生合成酵素であるLPCAT3に着目した。LPCAT3欠損マウスを用いた解析により,本マウスでは神経障害性疼痛が抑制されることを明らかにした。アラキドン酸含有リン脂質の量が変化した際に,どのように膜タンパク質の活性が変化するのかについては現在検証を続けている最中である。
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