研究課題/領域番号 |
22J01065
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 国立研究開発法人産業技術総合研究所 |
研究代表者 |
谷口 有沙子 国立研究開発法人産業技術総合研究所, エレクトロニクス・製造領域, 特別研究員(PD)
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研究期間 (年度) |
2022-04-22 – 2025-03-31
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キーワード | 溶液プロセス / 電気化学堆積法 / 酸素生成触媒 / ヘテロ構造 / 遷移金属水酸化物 |
研究実績の概要 |
初年度は次の2テーマを中心に研究を進めた。 研究1:VドープNi(OH)2/FeOOH酸素生成触媒の電気化学堆積 最近NiFe酸化物/水酸化物へのVイオンドープにより、酸素生成触媒活性のさらなる向上が報告されているが、Vイオンがホスト格子中でどのように配置するか、またVイオンがNi, Feイオンとどのように相互作用するか等、機能発現メカニズムについては不明な点が多い。本研究では、Ni(OH)2へのVイオンドーピングを試み、Ni(OH)2/FeOOH触媒における触媒活性の更なる向上、及び触媒活性化におけるVイオンの役割について検討した。得られた試料について評価を行った結果、VCl3濃度が0-10 mMの場合では、アノード電流値、過電圧に大きな変化は見られなかった。また、VCl3濃度を20 mM以上に増加した場合は、酸素生成触媒活性の急激な低下が確認され、Vイオンドープによる触媒活性向上は示唆されなかった。 研究2:FeOOH膜の電気化学堆積と酸素生成触媒への応用 Ni(OH)2/FeOOH触媒において、特にFeOOHにおいてはγ、α、β相等複数の構造が知られており、堆積条件に応じてどの相が析出するか、その膜厚が触媒活性に与える影響について明らかにすることで、ヘテロ積層体の活性向上のみならず、現在まで明らかにされていないFeOOH単体の触媒活性についての知見を得ることができる。本研究では、EDにおける印加電位、成膜時間がいかにFeOOH結晶相、膜構造、電極触媒活性能に影響を及ぼすか検討した。得られた全ての試料より、成膜時間に関わらずFeOOHの生成が示唆された。酸素生成触媒活性評価を行ったところ、成膜時間の増加に伴い電流密度 (at 1.8 V)が増大し、電流密度の立ち上がり位置が低電位側に大きくシフトする結果を得た。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
水分解触媒の開発において、ナノ構造や化学組成の高度化に伴い、材料作製プロセスが高難度化することで、デバイス化への不適合性、高コストといった問題が生じている。本研究では、上記の技術的課題を克服しつつ、材料性能の更なる高機能化を目指すため、電気化学堆積法 (ED法)を用いた水分解触媒の開発を行った。研究計画に従い2022年度はVドープNi(OH)2/FeOOH酸素生成触媒、FeOOH膜の電気化学堆積と酸素生成触媒への応用について検討した。まず、VドープNi(OH)2/FeOOH酸素生成触媒の電気化学堆積では、具体的には、FTO基板を負極、ステンレス板を正極としてFe溶液中で定電圧を印加することにより、FTO基板上に水酸化鉄層を堆積した。続いてNi, V混合溶液中で同様の処理を行うことで、水酸化鉄層上にVをドープした水酸化ニッケル層の堆積を試みた。得られた膜に対して酸素生成触媒活性評価を行ったところ、アノード電流値、過電圧に大きな変化は見られず、Vイオンドープによる触媒活性向上は示唆されなかった。FeOOH酸素生成触媒の電気化学堆積では、FTO基板を負極、ステンレス板を正極としてFe溶液中で印加電位、印加時間を変化させることで成膜を行った。得られた膜に対して、X線光電子分光(XPS)測定を行った結果、成膜時間に関わらず、全ての試料において、712 eV付近に3価のFe種からのFe 2p3/2ピークが確認され、FeOOHの生成が示唆された。同試料に対し、X線回折(XRD)を行ったところ、β-FeOOHおよび、γ-FeOOHを示すピークが各々検出された。上記試料に対し、酸素生成触媒活性評価を行ったところ、成膜時間の増加に伴い、電流密度(at 1.8 V)が増大し、電流密度の立ち上がり位置が低電位側に大きくシフトする結果を得た。以上の結果を元に、順調に研究が進んでいると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
初年度の検討により、FTO基板を負極、ステンレス板を正極としてFe溶液中で印加電位、印加時間を調整しながら電気化学堆積を行うことで、FTO基板上にFe/FeOOH複合膜が形成されることがわかった。このFe/FeOOH複合膜は、FeOOH単層膜よりも、著しく低い過電位と高い耐久性を示す。触媒活性向上の理由として、FeOOHと導電性Fe層間の界面電子移動が促進された為と推定しており、次年度は、上記仮説の実証を目的とし、生成膜の解析を進めるため、断面TEMにより構造・組織観察を進める。併せて、In-situ 電気化学Ramanにより、電位掃引に対する各層の結晶構造・電子状態変化、表面反応種を検出することでメカニズムの解明に繋げる。上記基礎研究において、新たな触媒設計指針を見出し、大面積化等、実用化に向けた課題の抽出と解決を行う。
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