研究課題/領域番号 |
22KJ3241
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配分区分 | 基金 |
研究機関 | 国立研究開発法人産業技術総合研究所 |
研究代表者 |
谷口 有沙子 国立研究開発法人産業技術総合研究所, エレクトロニクス・製造領域, 研究員
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研究期間 (年度) |
2023-03-08 – 2025-03-31
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キーワード | 溶液プロセス / 電気化学堆積法 / 酸素生成触媒 / 遷移金属水酸化物 |
研究実績の概要 |
地球上に豊富に存在し、安価で低毒な鉄から成るFeOOH触媒は、今後大規模実用が予想される水電解による水素製造に必須な酸素生成触媒として好適である。しかし、これまで開発されたFeOOH触媒の触媒活性はNi(OH)2やCo(OH)2等の遷移金属水酸化物触媒に比べて大きく劣る。この低い触媒活性は、FeOOHの低い電気伝導性が原因と考える。この問題を解決するためFeOOHとAu等の導電体とのコンポジット化が検討されている。本研究では、電気化学堆積によるFeとFeOOHからなるコンポジット触媒の作製を試みる。印加電位、成膜時間がFeOOH結晶相、膜構造、電極触媒活性能に及ぼす影響を検討し、成膜時間の増加に伴い電流密度(at 1.8V)が増大し、電流密度の立ち上がり位置が低電位側に大きくシフトする傾向が示された。得られたFe/FeOOH膜について断面TEM観察を行ったところ、Feを幹、FeOOHを葉とした樹状構造を有し、さらに樹状構造が均一な間隔で集合した森のようなマクロ構造を有する触媒であることが明らかになった。Fe/FeOOHフォレストと名付けた新規コンポジット触媒はFeOOH単体触媒よりも優れた電極触媒活性と耐久性を示した。FeOOH単体触媒とFe/FeOOHフォレスト触媒の耐久性を比較するため、アンペロメトリー測定を実施したところ、FeOOHのみからなる触媒では、測定開始後2時間程度で、電流値が大幅に減少した。一方、Fe/FeOOHフォレスト触媒では測定開始後2時間程度で電流値の増加し、その後安定した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究計画に従い、2023年度はシンプルなワンステッププロセスである電気化学堆積法を用いたFe/FeOOH触媒の作製を進めた。得られた試料は、2μmサイズの樹状構造を有する。具体的には、印加時間60秒では、FeOOHが主成分となる黄土色の膜が形成された。印加電位を一定にし、印加時間を増加させることで、基板表面が徐々に黒色へと変化した。600秒の反応後、金属鉄の形成を示唆する黒色の膜が得られた。印加時間60秒の条件で得られた試料では、FeOOHのXRD回折ピークのみが検出されたが、240、600秒の反応後、金属鉄を示す回折ピークも検出された。反応時間600秒で得られた試料に対し、透過型電子顕微鏡による断面構造を観察した結果、導電性基板上にナノスケールのFe/FeOOHヘテロ構造を有するミクロスケール樹状構造体が密に集合するフォレスト構造の形成が示唆された。FeOOH単体触媒とFe/FeOOHフォレスト触媒の耐久性を比較するため、アンペロメトリー測定を実施したところ、反応時間60秒で得られたFeOOHのみからなる触媒では、測定開始後2時間程度で、電流値が大幅に減少した。一方、Fe/FeOOHフォレスト触媒では測定開始後2時間程度で電流値の増加し、その後安定した。触媒評価後のTEM観察から、触媒活性の変化の原因と考えられるナノフォレスト構造の変化が観察された。以上の結果を元に、順調に研究が進んでいると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
初年度の検討により、FTO基板を負極、ステンレス板を正極としてFe溶液中で印加電位、印加時間を調整しながら電気化学堆積を行うことで、FTO基板上にFe/FeOOH複合膜が形成されることがわかった。このFe/FeOOH複合膜は、FeOOH単層膜よりも、著しく低い過電位と高い耐久性を示す。触媒活性向上の理由として、FeOOHと導電性Fe層間の界面電子移動が促進された為と推定された。次年度は、上記仮説の実証を目的とし、生成膜の解析を進めるため、断面TEMにより構造・組織観察を進め、Feを幹、FeOOHを葉とした2μmサイズの樹状構造を有し、さらに樹状構造が均一な間隔でが集合した森のようなマクロ構造を有する”Fe/FeOOHフォレスト”の形成が確認された。最終年度である次年度は、In-situ 電気化学Ramanにより、電位掃引に対する各層の結晶構造・電子状態変化、表面反応種を検出することでメカニズムの解明に繋げる。上記基礎研究において、新たな触媒設計指針を見出し、大面積化等、実用化に向けた課題の抽出と解決を行う。また、ここで得られた知見を元に、研究提案書に示したVドープNi(OH)2/FeOOH酸素生成触媒の検討にも活かし、Vイオンがホスト格子中でどのように配置するか、またVイオンがNi, Feイオンとどのように相互作用するか、触媒活性化におけるVイオンの役割についての検討を進め課題解決を目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
2023年度参加予定であった国際会議1件について円高の影響で断念した。この為、予定を変更し、構造解析をメインに続けた。この研究計画変更により、次年度使用額が発生した。次年度使用額は、2024年度に解析を継続する為の費用、電気化学関連装置の導入に使用する予定である。
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