本研究の目的は,緩和ケア従事者を対象に死のとらえ方と時間的展望に着目し,医療者に対する心理的理解及び支援に繋がる知見を得ることであった。 最終年度は,当初の開発プログラムの改良という計画を変更し,緩和ケア同様に死に寄り添うグリーフケアに携わるスタッフの理解と支援を深めるために,グリーフケアスタッフの経験に関する質的研究を実施した。グリーフサポートグループで活動するスタッフ9名を対象に,活動における経験について半構造化面接を実施し,M-GTAを用いて分析した。その結果,スタッフが活動継続を可能としている心理的背景が明らかとなった。当該研究の成果はDeath Studiesに投稿中である。 本研究全体を通じた成果は下記の通りである。まず、緩和ケアに従事する看護師を対象に実施した量的研究から,どのような死のとらえ方であっても,適応的な時間的展望を有しているほど,ターミナルケア態度の積極性が増すことが明らかになり,看護師が死に寄り添うことを支援する上で時間的展望が有益であることが示唆された。次に,緩和ケアに従事する看護師を対象に,時間的展望理論を応用した終末期患者に寄り添うことを支援するプログラムを考案し,その効果検証を行った。その結果,プログラムによってターミナルケア態度の向上など一定の有効性が示されたが,長期的な効果は認められず,改良が必要であることが示唆された。また,緩和ケアの隣接領域であるグリーフケアのスタッフの経験に関する質的研究を通して,スタッフがを活動継続を可能とする心理的背景が明らかとなり,その知見は緩和ケアをはじめとする死に関わる援助職にも資するものであった。本研究全体を通して,死に関わる領域において時間的展望に着目したアプローチを行うことは,自身の人生を振り返ると同時に,被支援者への関わり方にも前向きな変化を与え,結果的にケアの質が向上することが明らかとなった。
|