研究課題/領域番号 |
22KK0014
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
前田 美千代 慶應義塾大学, 法学部(三田), 教授 (70388065)
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研究分担者 |
工藤 敏隆 慶應義塾大学, 法務研究科(三田), 教授 (50595478)
安永 祐司 広島大学, 人間社会科学研究科(法), 准教授 (10807944)
八田 卓也 神戸大学, 法学研究科, 教授 (40272413)
マシャド ダニエル 立教大学, 法学部, 特任准教授 (50926087)
樋口 範雄 武蔵野大学, 法学部, 教授 (30009857)
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研究期間 (年度) |
2022-10-07 – 2028-03-31
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キーワード | 消費者裁判手続特例法 / 脆弱な消費者 / 高齢者法 / 障害者法 / 同性婚法 / 児童青少年法 |
研究実績の概要 |
2022年度の主要な点は、ブラジル側のアントニオ・カブラウ教授と研究計画の確認を行い、2023年度に行う国際シンポジウムにおける具体的なパネル構成を固めたことである。第一に、消費者法パネルでは、わが国の消費者裁判手続特例法が改正されたことを受け、適法要件や和解手法とともに残された課題について相互に比較検討する。合わせて、個別消費者への対応と集団的な消費者対応に関し、消費者政策の決定についてリーダーシップをとる法務人権省内の消費者当局と検察庁との関係についても調査し、集団的救済政策に関するわが国の消費者庁の役割について提言を行うことになった。第二に、手続法パネルでは、消費者法パネルと共通テーマとする形で、デュアルエンフォースメントに関する検討を追加する可能性が話し合われた。第三に、高齢者法・障害者法パネルでは、わが国における成年後見法制の改正に対して具体的に参考となるような手続的課題を網羅的に取り扱うことになった。第四に、家族法パネルでは、同性婚に関するわが国での将来的な法改正をメインとしつつも、子の福祉(財産開示を含めた養育費回収など)の問題も含めた手続法的検討を行うことになった。 本研究課題では、ブラジル検察庁とのコラボレーションにより、高度脆弱性を有する国民の司法アクセスや救済方法に焦点を当てるものであるが、同時に、集団的救済の政策面に目を向けると、法制度のあり方のみならず、法制度の立案や立法後の運営指揮においてリーダーシップをとる国家当局の役割も重要な研究対象であると考えている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は研究初年度のため、ブラジルの検察官、研究者および研究分担者間の具体的テーマ調整にかかる話し合いがメインであった。この話し合いを通じて、消費者法、手続法、高齢者法・障害者法および家族法という4つのパネル構成が決まった。各パネルにおける2022・23年度の具体的テーマについてはさらに詳細な調整を要する点もあるが、ブラジルと日本の法制度がそもそも完全な重なりを持たない中で、日本の法改正が動いている分野を中心に有益な示唆を得ることを共通目的として、根幹となる部分に関してはすり合わせができたと考える。 また、本研究はブラジル検察庁をメインパートナーとする研究課題であるが、各研究対象分野においては検察庁と並んで重要な機能を有する国家機関があり、相互連携のもとで動いている。消費者法の分野では、法務人権省内の消費者当局があり、これはわが国の消費者庁にあたる機関である。今後、消費者法分野以外の研究対象分野についても、検察庁と並んで活動する国家機関との連携も対象として、高度脆弱性を有する国民の救済に関する法政策も視野に入れて研究を進める。
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今後の研究の推進方策 |
第一に、集団的消費者救済に関して、消費者裁判手続特例法に関する諸論点(適法要件、和解手法など)とともに、ADRや行政手続を含めて検討する。第二に、司法IT化に関して、民事訴訟だけでなく、強制執行や家事手続も含めて考察する。ブラジルでは執行や養子・未成年後見にデータベースの活用がされている。さらに財産開示関係を含めて取り扱う。また、AI活用についても継続的課題とする。第三に、消費者法のデュアル・エンフォースメントに関して、これまでのブラジル法との比較では被害回復を中心に研究が進められてきたが、差止的救済に着目することが考えられる。さらに、経済法分野を含めることも考えられる。第四に、子の福祉と手続法に関して、養育費回収(財産開示も含む)、子の引渡しの強制執行、家事事件手続などを、実体法で扱うテーマと関連性を持たせて検討する。第五に、民事訴訟法一般として、裁判へのアクセス(訴訟費用や弁護士費用の補助の内容とその功罪)を切り口に、両国での近年の民訴法改正を含めた司法制度の全体像をテーマとし得る。また、第一の集団的救済とも関係するが、アミカスキュリエについてもブラジル法を参考とした提言を行うことができる。
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次年度使用額が生じた理由 |
2022年度は研究初年度であり、ブラジル側の検察官・研究者および研究分担者間での相互調整や話し合いが主要な活動となった。これらの話し合いを通じて、2022~23年度の短期的スパンにおける具体的かつ詳細な研究テーマのすり合わせを行うことができた。当該研究テーマのすり合わせに必要な書籍等の購入に支出が限定されたことが、次年度使用額が生じた理由である。残額の使用計画として、現在、円安の進行があるため、当初の計画よりも旅費の高騰が生じている。当初の計画どおりの人数で2023年度の国際シンポジウムへの招聘を行うためには、旅費予算を増額する必要があるため、当該次年度使用額を旅費の増加分に充てる予定である。
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