研究課題/領域番号 |
22KK0041
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
小田原 厚子 大阪大学, 大学院理学研究科, 准教授 (30264013)
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研究分担者 |
西畑 洸希 九州大学, 理学研究院, 助教 (00782004)
畠山 温 東京農工大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (70345073)
平山 賀一 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構, 素粒子原子核研究所, 准教授 (30391733)
飯村 俊 立教大学, 理学部, 助教 (60963014)
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研究期間 (年度) |
2022-10-07 – 2026-03-31
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キーワード | 中性子過剰核 / 原子核構造 / レーザー分光法 / β-n-γ核分光法 / スピン偏極ビーム |
研究実績の概要 |
中性子過剰核で次々に発見される奇妙な構造を理解するためには、実験的に励起状態のスピンとパリティという基本的量子数を測定する必要がある。しかし、ビーム量の少ない中性子過剰核に対して従来の一般的な手法で決定することは困難であり、スピン偏極核のβ崩壊のパリティ非保存によるβ線放出分布の非等方性を利用する我々独自の手法は非常に有効である。本研究は、異分野共同研究であり、かつ、カナダのTRIUMFとの国際共同研究である。 2022年は毎秒100個程度のビーム量の原子の超微細構造を測定する手法の開発を開始した。我々は最初にNa-32原子の超微細構造測定を目指している。なぜならば、中性子の個数が魔法数20であるが魔法数の性質が消失している中性子過剰核Mg-32は非常に注目されており、我々の手法を用いるにはスピン偏極Na-32核からMg-32核へのβ崩壊を観測する必要があるが、Na-32原子の超微細構造はビーム量が小さいためにいまだ測定出来ず、この情報なしに高偏極度のスピン偏極ビームを生成するとができない。少ないビーム量でも高感度・高効率で測定できるよう、レーザー分光法とβ線の非等方分布の測定を組み合わせた新たな実験手法の開発を進めている。 さらに、スピン偏極ビームの核種を広げるため、アルカリ土類金属であるMgのスピン偏極ビーム開発も行った。過去の実績として、高偏極度のスピン偏極Mgビーム生成に成功はしたが、長い距離を輸送するためにMgを2価のイオンにして環境磁場によるスピン緩和を防ぐようにしたが、2価のイオンにする際のヘリウムガスとの衝突によりスピン緩和が生じた。そこで、1価のMgイオンで輸送できるようにするために、TRIUMF側のプロジェクトとしてビームラインにコイルを設置して低磁場を印加し、環境磁場によるスピン緩和を防ぐ改良を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2022年度は、(1)毎秒100個程度の不安定核原子の超微細構造をレーザー分光法とβ線の非等方分布測定法を組み合わせた高感度・高効率測定法の開発、並びに、(2)スピン偏極ビームの核種を拡大するために、従来のアルカリ金属だけではなく、アルカリ土類金属のスピン偏極ビームの開発、を開始した。 まず、開発(1)で解決すべき点は、少ないビーム量でいかに高効率に高感度で蛍光を測定できるかである。そのために、日本とTRIUMFグループが共同で開発した球面ミラーと高感度の蛍光モニターの準備を行った。東京農業工業大学の学生がTRIUMFに12月から長期滞在中であり、これらの準備をTRIUMFの研究協力者とともに行った。また、蛍光モニターの集光率を調べるため、有限要素法による光学シミュレーションのコードを用いた計算を行っている。最初の測定目標は、中性子過剰核Na-32原子の超微細構造である。中性子数20の魔法数が基底状態で消失している逆転の島の原子核として非常に注目されているMg-32核に我々独自の手法を適用するには、スピン偏極Na-32核のβ崩壊を測定する必要がある。しかし、Na-32核の生成は非常に難しく、いまだ超微細構造は測定されていない。そこで、まずは安定核Na-23原子を用いて装置や測定手法の開発を2023年3月に実施予定であったが、TRIUMF側のビームライン申請許可のカナダの法律上の問題で、ビーム供給が数ヶ月ストップしたため、我々の実験は2023年度に持ち越しとなった。 次に、開発(2)として、アルカリ土類金属であるMgの高偏極度スピン偏極ビーム開発のための準備を行った。1価のイオンでビームを輸送することにしたため、環境磁場によるスピン緩和を防ぐためのビームラインへのコイルの設置をTRIUMF側で実施した。日本側はそれに伴う実験セットアップ系の改良を行った。
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今後の研究の推進方策 |
開発目標(2)の最初の研究目標は、中性子数が魔法数20の逆転の島の境界に位置するAl-33核の構造である。そのため、高偏極度のMg-33スピン偏極ビームを開発し、その後、スピン偏極Mg-33核からAl-33核へのβ崩壊実験を行う。4月から8月にかけて、大阪大学と九州大学でβ線・γ線・中性子検出器の準備を行い、検出器のセットアップ系の改良に伴って検出器のサポートフレームなどを製作し、また、回路系・データ収集系の準備も行う。8月頃に実験装置一式をTRIUMFに輸送し、8月から9月頃に若手スタッフや大阪大学・九州大学・東京農業工業大学の学生数名が数週間TRIUMFに滞在して、現地での実験準備をTRIUMFの研究協力者と共同して行う。10月以降に本実験を実施予定である。直前の実験準備・実験実施・後片付けを含めて数週間TRIUMFに10名近くが滞在し、研究を進める予定である。 開発目標(1)の最初の目標である、安定核Na-23原子を用いた、毎秒100個程度のビーム量のレーザー分光とβ線の非等方分布測定を組み合わせた手法による超微細構造測定手法の確立のための実験は、2023年冬頃に実施予定である。8月から9月頃のMg-33核のβ崩壊実験の準備でTRIUMFに長期滞在中に同時にこちらの準備も行う。少ないビーム量での超微細構造の測定法が確立した後は、いよいよ目的の中性子過剰核Na-32原子の超微細構造の測定実験を行う。この結果からNa-32原子や原子核の基底状態の構造が明らかになる。その後、この情報をもとに、高偏極度のNa-32スピン偏極ビームを開発し、スピン偏極Na-32核からMg-32核へのβ崩壊実験を行い、Mg-32核の原子核構造を解明する。 これら一連の実験データの解析は学生や若手研究者が中心となって行い、学会や国際会議で発表し、学位論文や投稿論文にまとめて発表する。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初の研究計画では、安定核Na-23原子を用いて、毎秒100個程度のビーム量での超微細構造測定法の開発実験を2023年の3月末に実施予定であった。しかし、TRIUMF側のカナダ政府へのビームライン使用許可の法律上の問題で、ビームタイムが数ヶ月にわたってストップしたため、我々の実験も3月に実験できず、2024年度に持ち越しとなった。そのため、旅費として使用する予定だった予算を2024年度に持ち越さざる得なくなった。 また、2024年度のMg-33核のβ崩壊実験のためにγ線検出器を製造元であるアメリカに修理に出し、2023年度内に修理は完了し、本予算より支払う予定であった。しかし、新型コロナウイルスの影響により、部品の納品遅れや技術者の不足により、修理完了が大幅に遅れ、2024年4月に納品ということになったことから、次年度使用額が生じた。
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