研究課題
宇宙開発の基盤として人類が月を利用する未来がすぐそこにまで来ており、月面への中継基地となる月周回有人拠点(Gateway)の建設準備が米国を中心に進められている。安心・安全に月周辺の宇宙空間を利用していくためには、そこで生起する電磁気現象を大きく左右する背景プラズマイオン組成を詳しく調べておくことが非常に重要である。この研究では、2026年から建設が始まるGatewayの船外に搭載予定のHERMES観測装置で得られるイオンフラックスデータを解析し、「太陽風起源、月起源、地球起源の多種多様なイオンは、月周辺のプラズマ環境にそれぞれどの程度寄与しているのか?」という問いに答えることを目的とする。今年度は、将来的にHERMESのデータを利用する際の事前準備として、まず、かぐや衛星に搭載されたIMA観測器が計測したデータを解析した。かぐや衛星が地球磁気圏尾部のローブ領域に滞在している期間に注目し、IMA観測器が地球から流れているイオンを観測できる時間帯(衛星の太陽天頂角が90度近い値の時間帯)のデータを用いた。2008年6月19日のそのような時期に注目して解析したところ、普段に較べて非常に多くのO+が観測されており、そのO+は月面から直接の方向よりは、地球方向から来ている量のほうが多いことが分かった。このイベントは、Dst指数が-10~-20 nT程度の地磁気擾乱としてはそれほど大きくない時期に起こっていることから、地球からは常に継続してO+が流れ出しており、それが38万km離れた月まで到達しうることを示している。こうしたイベントは、その他にも磁気圏尾部の別の場所でも数例見つけることができたため、O+イオンは地球から流出した後、磁気圏尾部の広大な領域に広がっていると考えられる。
3: やや遅れている
かぐや衛星のデータ解析に関しては予定通り進んでおり、静穏時であっても地球起源のO+イオンが38万km離れた月軌道まで流れ着いている様子が確認できた。ただ、研究課題提案当初、Gateway/HERMESの実施は2025年とされていたが、最近になってNASAから、HERMESの観測は2026年開始予定という発表がなされた。こちらは不可避の状況であるが、引き続き、状況の推移を注意深く見守っている。
Gateway/HERMESの実施は2026年からなので、それに向けての準備を行う。月面高度約100 kmの低高度を周回して月周辺のイオン組成を計測していた「かぐや」衛星のデータを統計解析する。ただし、Gatewayのように月周辺の広い高度領域を調べることはできないので、特に地球起源と思われるO+イオンが、磁気圏尾部中において、どの様な時に観測され、どの場所で観測されるかについて限定した解析を行う。研究協力者(原田)は、かぐや衛星をこれまでに利用した経験があるため、主に能勢と原田でこの課題に取り組む。研究成果について、学会での発表や論文出版を行う。また、かぐやのデータ解析結果やHERMESデータ解析計画について、海外共同研究者であるGlocer博士やHERMES/IDSチームの研究者と議論する。
今年度は新型コロナウィルス症蔓延のため、多くの学会がオンライン形式で開催された。そのため、関係する学会に参加する際の旅費が必要なくなり、次年度使用額が生じた。今後は、ハイブリッドまたは完全対面形式で開催される学会が増えてくるため、この次年度使用分は学会旅費として利用する予定である。
すべて 2023 2022 その他
すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (12件) (うち国際共著 10件、 査読あり 12件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (8件) (うち国際学会 6件、 招待講演 3件) 備考 (2件)
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