研究課題/領域番号 |
22KK0056
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
湯浅 裕美 九州大学, システム情報科学研究院, 教授 (20756233)
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研究分担者 |
田中 輝光 九州大学, システム情報科学研究院, 准教授 (20423387)
黒川 雄一郎 九州大学, システム情報科学研究院, 助教 (20749535)
牙 暁瑞 九州大学, マス・フォア・インダストリ研究所, 学術研究員 (50912359) [辞退]
山下 尚人 九州大学, システム情報科学研究院, 助教 (50929669)
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研究期間 (年度) |
2022-10-07 – 2027-03-31
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キーワード | 磁気準粒子 / 情報キャリア / スキルミオン / スピン軌道トルク / DMI |
研究実績の概要 |
磁気準粒子スキルミオンの3大メリットである「微細化・高速転送・定電流駆動」を並立するため、独自の二重ヘテロ界面を導入した新しい積層構造において、磁性薄膜の磁気特性とスキルミオン生成の必要条件を系統的に明らかにする。本年度は、スキルミオン生成に必要なジャロシンスキ守屋相互作用と、高速転送・定電流駆動を得るためのスピン軌道トルク効率の高い積層体として昨年見出したPt/Co/Tb/Wとは異なる垂直磁化膜Pt/Co/Ni系に着目した。これに挿入層を入れることでSOT効率を挙げつつDMI係数を維持する事が目標である。 まず、試料をLorenz TEMで観測し、外部磁場によるスキルミオンの生成・消滅を実測した。挿入層として界面へのインパクトが大きいと期待される重い元素、一例としてGdを試行した。しかし、残念ながらGdを挿入すると、スピン軌道トルクはほぼ変化しないという結果となった。加えて、Lorenz TEM観察によれば、Gd挿入によってスキルミオンの安定生成が困難となり、DMIが低下することが示唆された。結果としては期待に反したものの、1原子層に満たない程度の挿入層であっても、大きくDMIが変化することは実証できた。 そこで、次なる挿入層としてGdとは逆の軽元素に着目した。これにより、SOT効率を3倍にまで向上できることが分かった。これは同じ電流を流したときに速度が3倍になることを示す。このメカニズムを明確にするため、共同研究先であるスペインのCIC nanoGUNEからResearch DirectorとPre-doctoral fellowが九州大学に滞在し、共同で試料作製の実験を行い、それをスペインに持ち帰り測定した。また、ドイツのJohannes Gutenberg University Mainzに2名の学生が2カ月滞在し、スキルミオン生成条件と転送観察の実験を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
最終目標は、磁気準粒子スキルミオンの3大メリットである「微細化・高速転送・定電流駆動」を並立することであり、本年度は2つの指針で進めた。 一つは昨年度と同じ指針に基づき、ジャロシンスキ守屋相互作用とスピン軌道トルク効率の両立する事である。具体的な方策は、重金属層と磁性層の間に極薄の層を挿入してスピンミキシングコンダクタンスを増加することでスピン軌道トルクを向上しつつも、スキルミオン安定性に必要なジャロシンスキ守屋相互作用を維持することである。過去に別の物理現象であるスピンゼーベック効果やスピンホール磁気抵抗効果の観察により、スピンミキシングコンダクタンスを向上できた挿入層を手がかりに、複数種類の積層膜で挿入層がスピン軌道トルクとジャロシンスキ守屋相互作用に与える効果を調べた。Pt/Co/Ni積層膜では界面に影響が大きいと予測した思い元素であるGdを挿入することにより、ジャロシンスキ守屋相互作用は低下してしまった。スピン軌道トルクは変化なしである。一方、軽い元素を挿入すると、ジャロシンスキ守屋相互作用を損ねることなくスピン軌道トルクを増加することに成功した。これらは、磁化曲線、スピン軌道トルク磁化反転、国際共同研究先における磁気光学効果に基づく特殊な測定手法Generalized Magneto-Optics Ellipsometry (GME)により確認された。 もう一つは、標準的な磁気光学顕微鏡で観測可能な、モデル実験用のスキルミオンを作成する事である。Lorenz TEMは汎用的でないため、転送速度の測定に用いる事は難しい。そこで、汎用的な磁気光学効果顕微鏡の解像度で観察できるμ級のスキルミオンを作成し、モデル検証をすることにした。本年度はまず、CoFeB系でスキルミオンを作成し、汎用的な磁気光学効果顕微鏡でスキルミオンを観測することが出来た。
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今後の研究の推進方策 |
本年は、スピン軌道トルクとジャロシンスキ守屋相互作用の両立が出来た試料構成で、スキルミオンのサイズをKerr効果顕微鏡で観察できる程度まで大きくし、電流により駆動して観察する。これにより、スピン軌道トルクの異なる試料のスキルミオン転送速度を、Kerr効果顕微鏡により定量的に測定する。前年までにスピン軌道トルク磁化反転により、その効率が増加する構成を見出したが、実際のスキルミオンが高速に動くかどうか、実際にデバイスで転送し、この目論見の正当定を検証する。これが検証されたならば、次は積層体の構造探索を更に進める。 昨年までに、挿入層として良い材料、悪い材料があることを見つけた。これまでの結果においては、軽元素が好適である。しかし、まだ網羅的な実験はしていないため、さらに系統的に探索を進める。その中で良い材料については、上述のように実際の電流による転送実験を行い、転送速度を定量化する。 さらに、本年度は博士課程の学生が先方に1か月程度滞在し、本格的な実験を進める予定である。研究員の密な交流から研究促進を図る。
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次年度使用額が生じた理由 |
滞在費として招へい分を計上していたが、先方の研究費で渡航する事となり実費が減少した。
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