研究課題/領域番号 |
22KK0084
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
高橋 宏和 名古屋大学, 生命農学研究科, 准教授 (50755212)
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研究分担者 |
野田 祐作 国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構, 高崎量子応用研究所 放射線生物応用研究部, 研究員 (40865838)
杉浦 大輔 名古屋大学, 生命農学研究科, 講師 (50713913)
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研究期間 (年度) |
2022-10-07 – 2025-03-31
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キーワード | 炭素動態 / 過湿ストレス / ダイズ / RIイメージング / 根系モデリング / 放射性同位体 |
研究実績の概要 |
令和2年度の日本におけるダイズは飼料用も含めるとわずか6%程度となっている.ダイズの生産性が向上しない要因の一つに過湿ストレスが挙げられる.日本においてダイズの耐湿性の向上は,未だ解決されていない長年の課題である.植物の根は,養水分の吸収を担う重要な器官であるとともに,湿害,旱害,塩害,貧栄養などの環境ストレスに真っ先に晒される器官であることから,作物はこのようなストレスに適応するために根系の再構築を行う.そのため,植物が環境ストレス耐性を獲得するためには,根系の改良が重要であり,第二の緑の革命は根型育種において起こると期待されている.そのため,耐湿性向上においても過湿ストレスに適応できる根系を育種する必要がある.そのためには,過湿ストレスに対する根系形成を理解し,根系形成モデル構築し,根型育種のための明確なストラテジーの確立が必要不可欠である.これまでに過湿ストレス下において,根系形態の変化よりもはるかに早く炭素動態を変化させていることから,2023年度はダイズ幼苗期をモデルに植物の生理応答と炭素動態について詳細な解析を行った.その結果,ダイズは過湿ストレス後1時間以内に炭素動態を大きく変化させていることが明らかとなった.また,CIRADにおいて海外共同研究者と連携して制御環境下で複数のダイズ品種を栽培し,過湿ストレスに対する根系形態を解析した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度,ダイズ幼苗を使用した放射性同位体を用いた実験から過湿ストレス後に根における炭素動態が1時間以内に大きく変化したことが明らかとなった.同様に地上部の光合成活性や糖濃度を測定したが,これらについては24時間以内に大きな変化は観察されなかった.したがって,新規固定炭素の動態が,過湿ストレスに応答して大きく変化しており,早期のストレス応答の指標となることが明らかとなった.さらにPETISを用いた解析から,遅くとも処理後20分後には過湿ストレス下において根の炭素の輸送が大きく抑制される可能性があることが明らかとなった.また,フランスのCIRADにおいてRhizoscopeを用いた解析を行いダイズ6品種を低酸素および酸素十分条件下で栽培し,光合成活性や根系形態および地上部形質を測定したところ品種間差を検出できた.
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今後の研究の推進方策 |
昨年度までで,ダイズ幼苗期における過湿ストレスに応答した,根系形態とその炭素動態に関するデータについては十分に取得することができた.しかし,低酸素処理を施しているものの,実際に根に酸素が全く輸送されていないのか,あるいはされていたとしてもどの程度酸素が根に供給されているかなどの情報が不足している.そこで,次年度は円筒型酸素電極を用いて,過湿ストレス下で根にどの程度酸素が供給されているかについて評価する.また,過湿ストレス下の根の応答として主根の伸長停止がある.過湿ストレス下の根系形態の変化は,主根根端が傷害を受けたことが要因となっている可能性があることからこのことについても検証する必要がある.これらの生理学的,形態学的データを蓄積した上でCIRADの共同研究者と根系形態のモデリングを行う予定である.また,昨年度フランスのCIRADにおいてRhizoscopeを用いた解析を行い品種間差を検出することには成功した.しかし,低酸素処理区と酸素十分な環境との間で,明確な生育の差を検出できなかった.これは施設内の光が強く過湿ストレスの影響が低減されてしまったことが要因であると考えられる.今年度についても,この問題を解決し1ヶ月間CIRADでのダイズ栽培を行う予定である.
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次年度使用額が生じた理由 |
当初,昨年度使用する予定であったが円安の影響で,次年度のCIRADでの実験にかかる費用の高騰が予測されたため,当初の予定を一部変更し,次年度への繰越を行った.
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