研究課題/領域番号 |
22KK0092
|
研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
高田 晋史 神戸大学, 農学研究科, 助教 (90739781)
|
研究分担者 |
山口 創 公立鳥取環境大学, 環境学部, 講師 (10709281)
衛藤 彬史 兵庫県立人と自然の博物館, 兵庫県立人と自然の博物館, 研究員(移行) (50778454)
眞鍋 邦大 龍谷大学, 経営学部, 准教授 (90845033)
|
研究期間 (年度) |
2022-10-07 – 2027-03-31
|
キーワード | 世界農業遺産 / GIASH / 伝統的農業システム / 動的保全 |
研究実績の概要 |
今年度は、①進化論に基づく理論的枠組みの構築、②国内における世界農業遺産地域での基礎調査を行なった。 ①については、進化生物学者を招いた研究会を開催し、進化論に関する理解を深めるとともに、進化生物学者からの助言を踏まえながら、進化論の枠組みの本研究への援用について検討した。 ②については、徳島県にし阿波地域と静岡県伊豆地域で基礎調査を実施した。まず、徳島県にし阿波地域では、主に3つの視点から調査を行った1つ目は、伝統的農業システムの根幹をなす農法の変化を把握するために、80歳以上の高齢農家に対し質的調査を実施した。この調査をもとに、過去から現在にかけての農法の変化とその背景について整理した。2つ目は、全域に普及している農泊世帯を対象に質的調査を実施し、農泊経営と農法及び伝統食の保全との関係について整理した。3つ目は、農法に関するナレッジがどのように継承されているのかという視点から、50から60歳代の農家に対してヒアリング調査を行い、経営形態とナレッジの継承との関係について整理した。この他、県農業支援センターには地域における農業経営の概要や農法の変化状況について、徳島剣山世界農業遺産推進協議会事務局には世界農業遺産認定までのプロセスや動的保全計画についてのヒアリングを行った。 静岡県伊豆地域では、行政担当者に対してはわさび栽培の歴史的経緯、農家に対しては農業経営や農法についてのヒアリングを行い、わさび栽培の成立と普及、産地化の経緯、流通構造の変遷についての整理を行った。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
まず、本研究における理論的枠組みのベースとなる進化論について、専門家(進化生物学者)を交えて議論をすることで理論構築に関する議論が大いに進展した。今後も引き続き専門家を交えながら議論を行うことで、より実態にそくした理論構築を目指す。 次に、徳島県にし阿波地域と静岡県伊豆地域で基礎調査では、今後の研究においてベースとなるデータや情報を収集することができた。特に、徳島県にし阿波地域では複数回の調査で、伝統的農業システムの保全に関わる多様なアクターへの調査を実施することができ、次年度以降の具体的な研究課題の設定につながった。また、静岡県伊豆地域での調査から、伊豆地域の事例が本研究において十分示唆に富むものであることが確認でき、次年度以降も継続して調査研究を行う予定である。
|
今後の研究の推進方策 |
まず、進化論をベースにした理論的枠組みの構築については、昨年度と同様、専門家を交えての議論を継続し、実態にそくした理論構築を目指す。 次に、日本と中国における事例研究については以下の内容で進めていく予定である。 日本の事例研究については、昨年度実施した基礎調査の成果をふまえ、徳島県にし阿波地域と静岡県伊豆地域及び静岡地域で実態調査を行い、分析結果を論文にまとめて学術雑誌に発表する。具体的に、にし阿波地域では、伝統的農業システムの核である農法に着目し、過去から現在にかけて農法がどのよう変容したのかを社会経済環境の変化に着目しながら分析する。また、農泊経営と伝統的農業システムの保全との関係については、地域内の農泊世帯に対してアンケート調査を行い定量的な分析を行う。この他、農業経営形態とナレッジ継承の関係についての調査研究も継続して行う。静岡県では調査地を静岡地域にまで広げ、水わさびの市場及び流通構造の変化や災害などと伝統的農業システムの保全との関係に着目した調査研究を行う。 中国の事例研究については、中国への渡航規制が緩和されつつあるため、9月に内モンゴル自治区武川県、3月に雲南省元陽県での調査に向けた準備を行う。具体的には、中国の研究協力者とより密度の濃い情報交換を行うとともに、必要に応じて代表者が中国に渡航し研究協力者と対面で調査に向けた打ち合わせと意見交換を行う。
|
次年度使用額が生じた理由 |
2022年度については、当初、3月に東京で開催される2023年度日本農業経済学会大会(アジア農業経済学会との共催)に参加する予定であったが、本研究と関係性の高い研究報告があまりないことや大会参加費が高額であったことなどから参加を断念した。このことから、未使用額が発生した。 2023年度は、日本では徳島県にし阿波地域と静岡県伊豆地域・静岡地域に複数回訪れ実態調査を行う予定である。また、必要に応じて他の地域での実態調査も行う予定である。一方、中国では内モンゴル自治区武川県、雲南省元陽県で基礎調査を実施する予定である。また、これらの調査準備のために、代表者が中国を訪れ、現地の研究協力者との打ち合わせや意見交換を行いたいと考えている。従って、2023年度の研究費の大半は、日中両国で実施する調査費用及び調査補助の人件費にあてる計画である。この他、理論構築や農村調査及び分析にあたり専門家からの助言を受ける予定であり、その際の謝金や学会参加及び学術雑誌への投稿にかかる費用が主な用途となる。 このように、2023年度から本格的に実態調査を行い、積極的に研究成果を発表する予定であるため、年度内で無理に使い切ることせず繰り越す決断をした。
|