研究課題/領域番号 |
22KK0098
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
菅瀬 謙治 京都大学, 農学研究科, 教授 (00300822)
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研究分担者 |
森本 大智 京都大学, 工学研究科, 助教 (40746616)
Walinda Erik 京都大学, 医学研究科, 助教 (80782391)
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研究期間 (年度) |
2022-10-07 – 2026-03-31
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キーワード | 電場 / NMR / タンパク質 / 電気泳動 / 凝集 |
研究実績の概要 |
生物を専門とする申請者は、物理と装置開発が専門のUlrich Scheler博士(ドイツ)と試料に流れを発生させながらNMR測定ができるRheo-NMRの国際共同研究を行っている。現在までに世界最高感度のRheo-NMR装置を製作し、線維化していくタンパク質のリアルタイム計測などに成功した。この共同研究は昨年度まで受給した国際共同研究強化(B)のお陰で多方面に広がり、その1つに電場中のタンパク質の解析という新しい研究へ展開した。この背景には、申請者は神経細胞に発生する電場がタンパク質に及ぼす影響に興味を持っており、一方、Schelerは電場を印加しながら測定ができる電場NMRを所持している。しかし、同装置はタンパク質の解析には分解能が十分でない。そこで本研究では、Schelerと共同してタンパク質も解析できる高分解能電場NMR装置を開発し、さらにSchelerの電場NMRを用いた新規解析法や電場中の分子動力学計算法を開発し、電場中のタンパク質の挙動を詳細に研究する。 昨年度は、Schelerの電場NMRを用いてαシヌクレインとATPとの弱い非特異的な相互作用を解析した。ATPは中性条件で-4の電荷を持つため、αシヌクレインにATPが結合するとより負に荷電するため電気泳動度が変わるであろう、というのがこの実験のアイデアである。0.28 mMのαシヌクレインに種々の濃度のATP(0 mM、0.56 mM、2.8 mM、10 mM)を添加した試料を準備し、電場NMRを用いて電気泳動度の測定ひいてはαシヌクレインの見かけの電荷を算出した。その結果、ATP濃度が高くなるにつれてαシヌクレインの見かけの電荷がより負に大きくなることが分かった。さらに興味深いことに、ATPがないαシヌクレイン溶液では測定後の試料が濁っていた。これは電場によってαシヌクレインが凝集したと考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究が昨年の10月に採択され、その直後から共同研究者のドイツ・ライプニッツポリマー研究所センター長のScheler博士と、具体的な実験の内容や訪独の計画についてディスカッションを繰り返した。実験内容の議論は報告者らがライプニッツポリマー研究所に到着してからも続いた。3月末に実際にライプニッツポリマー研究所を訪問し、αシヌクレインとATPの相互作用を電気泳動度の違いから解析することを試みた。この実験に関して、申請者らは2021年にハイドロトロープ(凝集抑制剤)としてのATPがタンパク質(αシヌクレイン、ユビキチン、p62)と非常に弱く非特異的に相互作用することを明らかにしている。しかし、どれくらいの強さで何個のATPがタンパク質と相互作用するのかが不明であった。先行実験で解析したタンパク質の中で、αシヌクレインだけがアミロイド線維化する(パーキンソン病の発症と関連する)ため、ATPがハイドロトロープとしてどのように凝集を抑制するのかをより詳細に解析するために、本研究ではとくにαシヌクレインを対象として、電場NMRを用いてATPとの相互作用を解析した。ATPは中性条件で-4の電荷を持つため、αシヌクレインにATPが結合するとより負に荷電するため電気泳動度が変わるであろう、というのが本研究におけるアイデアである。0.28 mMのαシヌクレインに種々の濃度のATP(0 mM、0.56 mM、2.8 mM、10 mM)を添加した試料を準備し、電場NMRを用いて電気泳動度の測定ひいてはαシヌクレインの見かけの電荷を算出した。その結果、ATP濃度が高くなるにつれてαシヌクレインの見かけの電荷がより負に大きくなることが分かった。さらに興味深いことに、ATPがないαシヌクレイン溶液では測定後の試料が濁っていた。これは電場によってαシヌクレインが凝集したと考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
3月の実験では、αシヌクレインとATPとの相互作用を電場NMRで解析できること分かった。今後はこの結果に再現性があるのかを確かめるとともに、より多くの異なるATP濃度で同じ実験を行い、結果として得られるαシヌクレインの見かけの電荷から、何個のATP分子がどのような強さでαシヌクレインと結合するのかを明らかにする。この実験については、博士課程1年の学生が2ヶ月程度ライプニッツポリマー研究所に滞在して行うことを計画している。また、3月の実験では、電場によってαシヌクレインが凝集することが示唆された。この結果は、元々、電場によってαシヌクレインが凝集することが報告されているため、その実験を再現したことになる。しかも、今回はATPがあるとその凝集が抑制されたわけである。このことは、電場NMRを用いると、凝集しようとしているタンパク質とATPとの相互作用を原子レベルで解析できることを意味する。これまでのハイドロトロープとしてのATPとタンパク質との相互作用解析は、分子レベルのものか凝集しない条件における原子レベルの解析しかない。そのため、凝集しようとしているタンパク質とATPとの相互作用を原子レベルで解析することは意義深い。ただし、Scheler博士の電場NMRではタンパク質の原子レベルの解析ができない。そのため、本研究におけるもう1つの目的である高感度高分解 電場NMR装置の開発を進める。実際のところプロトタイプは完成しており、NMR管の中に異物である電極を挿入して電場を印加した状態でも、高感度高分解能NMR測定ができることを確認している。ただし、電場のオンオフの制御が完全ではないことや、被覆材と電極を接着するのに用いた接着剤が溶け出しているような感じであるため、今後はこれらの問題を解決するべく装置開発を進める。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が生じた理由は、新型コロナウイルスの影響で電場NMR装置の開発の一部が次年度送りになったためである。この遅れは次年度に取り戻せる見込みである。
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