研究課題/領域番号 |
22KK0145
|
研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
加藤 昌志 名古屋大学, 医学系研究科, 教授 (10281073)
|
研究分担者 |
田崎 啓 名古屋大学, 医学系研究科, 講師 (80333326)
大神 信孝 藤田医科大学, 医学部, 教授 (80424919) [辞退]
原 田 筑波大学, 生命環境系, 助教 (80868258)
|
研究期間 (年度) |
2022-10-07 – 2027-03-31
|
キーワード | 皮革産業 / バングラディシュ / 水質汚染 / クロム / 健康影響評価 |
研究実績の概要 |
世界貿易額が10兆円を越える皮革産業において、環境汚染が発生する工程を途上国が分担し、汚染の発生しない工程を先進国が分担するという 不平等な構図ができあがっている。実際に、途上国(バングラデシュ)では、10年以上前から皮革工場に起因する深刻な環境汚染と皮革工場労 働者の健康障害が報告されているが、問題は一向に解決されていない。本研究は、開発途上国で発生している「皮革産業に起因する環境汚染」と「皮革工場労働者の健康障害」を解明することを目的として、研究を推進する。 本年度は、皮革産業に起因する環境汚染に焦点を当てた環境研究を実施した。未処理の皮革工場廃液が直接流れ込む排水路を、小規模のダム(遮蔽物)を用いて遮断することの環境的意義を調べた。当初の予想通り、排水路のダム下流域における3価クロム濃度は減少した。しかし、排水路のダム上流域の6価クロム濃度は、ガイドライン値を超えるほど増加した水検体もあった。本成果は、高濃度の3価クロムを含む水圏における排水路遮断のリスクとベネフィットを示した(Chemosphere 2024)。本年度は、さらにクロム以外の元素に対して有効な新しい浄化技術を提案した(Sep Purif Technol 2023)。 本年度の皮革工場労働者の健康障害の解明に焦点を当てた研究では、皮革工場労働者を対象とした疫学研究を実施した。当初の予想とは異なり、皮革工場労働者の爪に含まれるクロム濃度と血圧および尿糖との間に負の相関関係を認めた(Chemosphere 2023)。3価クロムは、糖尿病患者の血糖値を低減する効果があるという報告を考慮すると、3価クロムの曝露により、皮革工場労働者の高血圧や尿等が低減された可能性があると推察される。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
2024年度には、皮革工場に由来するクロムの環境汚染(Chemosphere 350:141047, 2024)と皮革工場労働者におけるクロムの健康影響(Chemosphere 337:139190-139196, 2023)に関する新規知見を論文として公表できた。ゆえに、当初の計画以上に進展していると判断した。
|
今後の研究の推進方策 |
A. 環境汚染の把握:バングラデシュにおいて、最盛期の30%程度の数の非合法皮革工場が残る地域と新規皮革工場集積地域において皮革工場内外の環境検体を採取した水検体と土壌検体をICP-MSおよびGC-MS等を用いて分析し、環境汚染の現状を調べる。特に、新規皮革工場集積地域では、皮革工場が環境汚染の原因であることを地理的に証明できるかどうかを検討する。さらに、旧規皮革工場集積地域と新規皮革工場集積地域の環境汚染を比較し、皮革工場移転に関する環境学的意義を考察する。 B. 汚染物質の健康影響評価:バングラデシュの皮革工場労働者と皮革工場集積地以外の事務労働者に対して、無料健康診断を実施し、健康診断で採取した余剰検体をICP-MSおよびGC-MS等を用いて分析する。さらに、分析結果を疫学的に解析し、皮革工場で曝露される化学物質の健康影響を調べる。特に、本年度は、皮革工場労働者の尿に含まれるフェノール類(ビスフェノールA等)が労働者の健康に与える影響を調べる。また、ヒトに対する疫学観察研究の成果を基盤として、標的とする化学物質の健康影響を動物(マウス)や培養細胞を用いた介入研究で実験的に確認する研究を検討する。最後に、環境モニタリング・疫学観察研究・実験介入研究の成果を統合し、浄化すべき有害化学物質(無機物と有機物)を特定する。 C. 解決策の提案と実践:まず、ハイドロタルサイト様物質を用いた代表者等が発明したオリジナルの浄化材(特許5857362号)を基盤技術として、除去すべき有害元素を含む人工的水溶液に対する浄化材の吸着効果をラングミュア吸着等温式等を用いて化学的に証明する。さらに、バングラデシュにおいて採取された皮革工場内外の廃液(環境検体)を用い、本研究において開発された浄化材により有害化学物質を除去できるかどうかを調べるとともに、必要に応じて、新しい浄化材の開発に挑戦する。
|
次年度使用額が生じた理由 |
「調達方法の工夫や装置を手作りするなどにより、当初計画より経費の節約ができたこと」と「一部関連する課題で民間の財団から研究費を取得できたこと」等により、次年度使用額が生じた。次年度は、予定の予算に、次年度使用額を加えて使用し、より広い地域で、より多くの検体を積極的にサンプリングし、より学術的・社会的意義の大きい研究を推進する。
|