研究課題
本研究提案では、日本とフランス(レンヌ大学/Prof. Roman Bertoni)の国際共同研究を通して、超高速時間分解電子線回折実験と広帯域光学ポンプ・プローブ実験の相補的利用によるカーボンナノチューブと窒化ホウ素ナノチューブからなる1次元ファンデルワールスヘテロ構造間に生じるエネルギー輸送現象の解明を行うことを目的としている。2023年度の6~7月と10~11月の2度に分けて、計2か月間をフランスのレンヌに滞在し、1次元ファンデルワールスヘテロ構造間に生じる電子の移動現象の解明に取り組んだ。具体的には、レンヌ大学の広帯域の光学ポンプ・プローブ計測装置を用いて、400nmの近紫外光(ポンプ光)で試料を励起し、230nmの深紫外光(プローブ光)で試料中の電子の移動を観測した。また、プローブ光には近赤外領域(1200nm)から可視光領域(360nm)のパルス光も用いて、広帯域の過渡透過スペクトルを取得した。1次元ファンデルワールスヘテロ構造体のには、ポンプ光照射後に深紫外光の過渡透過率の1psあたりに大きな強度変化が表れたが、カーボンナノチューブのみの試料には、同様の変化は見られなかった。これは、カーボンナノチューブから窒化ホウ素ナノチューブに電子が移動していることを示唆している。現在この電子移動と日本で実験した超高速時間分解電子線回折法による構造変化を合わせて、現在論文を投稿しているところである。カーボンナノチューブから窒化ホウ素ナノチューブからなる1次元ファンデルワールスヘテロ構造体だけでなく、遷移金属ダイカルコゲナイドなどの低次元物質の電子線回折実験も行っており、今後これらの試料のダイナミクスに関しても測定してく予定である。
2: おおむね順調に進展している
2023年度の2か月の滞在で、当初目的としていた1次元ファンデルワールスヘテロ構造間に生じる電子の移動現象に関して、論文執筆に必要としていたデータをそろえることができた。日本で実施した超高速時間分解電子線回折法による構造変化を合わせて、論文を投稿するところまでこぎつけることができており、おおむね順調に進展していると言える。今後、論文の修正等を行いながら、論文掲載を目指すこととなる。また、カーボンナノチューブあるいはファンデルワールスヘテロ構造体の間で生じる電子移動だけでなく、カーボンナノチューブ内で生じる電子の緩和現象に関しても興味深い変化を見ることができており、今後の研究の進展が期待できる。
現在、カーボンナノチューブと窒化ホウ素ナノチューブの間で生じる電子移動現象の観測に成功しており、現在他のファンデルワールスヘテロ構造体を作製しているため、それらの構造ダイナミクス計測を進めていくことになる。特に昨年度は、MoTe2などの遷移金属ダイカルコゲナイドと呼ばれる低次元物質の構造ダイナミクス計測に成功しており、これらを重ね合わせたファンデルワールスヘテロ構造体の構造ダイナミクスを超高速時間分解電子線回折法と広帯域の光学ポンプ・プローブを駆使して計測していく予定である。
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すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (15件) (うち国際学会 6件、 招待講演 4件)
The Journal of Physical Chemistry C
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