研究課題
本国際共同研究ではpyroptosisに着目し、セツキシマブの長期処理のなす細胞遊走能変化や細胞密度上昇が関連タンパクであるGsdmdの発現動態とpyroptosis発現にどのように影響するかを明らかにすることを目標とした。一方、pyroptosisに付随する腫瘍微小環境における抗腫瘍免疫の変化を明らかにし、免疫チェックポイント阻害剤との併用治療の可能性や、がん標的治療の新たな可能性を提案することも目指している。まず、Gsdmdノックアウト(KO)および野生型マウスに4-Nitroquinoline 1-oxide (4NQO)を用い、口腔がん誘発モデルを作成した。口腔内病変形成をエンドポイントとするDisease Free Survivalから、Gsdmd-KOマウスでは有意に口腔粘膜病変形成が遅れ、かつ形成された病変数の減少が見られた。しかし、病変を切除してq PCRやウェスタンブロット等により免疫のリクルートを見ると、有意な変化は見られなかった。これは腫瘍組織の高度な不均一性に由来する結果であると考えられた。また、Gsdmd-KOおよび野生型マウスにおいて、マウス口腔扁平上皮癌細胞株であるMOC2-E6/E7を皮下移植すると、Gsdmd-KOマウスにおいて有意に腫瘍増殖が抑制された。一方、Gsdmdをノックダウンしたマウス口腔扁平上皮癌細胞株NOOC2-shGsdmd、およびコントロールとしてNOOC2-shEVを野生型マウスに皮下移植すると、NOOC2-shGsdmdでコントロールと比較し有意に腫瘍の増大を認めた。前者では、マクロファージをはじめとする免疫細胞のpyroptosisが抑制され、また後者では主要細胞のpyroptosisが抑制されたことにより、それぞれ腫瘍増殖に働いたものと考察された。今後はその詳細なメカニズムの解明が望まれる。
2: おおむね順調に進展している
特に時間を要するin vivoの実験について、前年度に実験の方向性を決める大枠を捉えることができた。しかし、4NQOを用いた口腔がん誘発モデルは、その作成からマウスの屠殺まで半年以上を要するため、今後はいくつかのモデルを同時に作成する必要がある。Hippo-YAP経路とGasdermin Dの関連性については、in vitroにおいて口腔扁平上皮癌細胞株やマウス骨髄(野生型およびGsdmd-KO、そしてK5-CreER-;Yap5sa+/-)より分化誘導するマクロファージを利用し、キープロテインの把握、その下流経路における各種分子の発現や機能をqPCRやウェスタン・ブロット法等を用いて解析し、マクロファージの腫瘍免疫における機能解析を行う予定である。また、同マクロファージについてシングルセルRNA解析を行い、遺伝子発現と活性化経路の同定も予定している。
基本的には当初の研究計画どおりに実験を進めていく。キープロテインの特定や腫瘍免疫の変化等に応じ、標的とする治療薬の投与等も流動的にin vivoで試していく。現在、野生型およびGsdmd-KOマウスの骨髄から分化誘導したマクロファージを利用し、炎症誘導後(インフラマゾーム活性化後)の機能の差異について解析を行なっている。これによりやはりマクロファージにもpyroptosisが生じるが、その際Fgfrファミリー遺伝子の発現にもフェノタイプ間で異なっていることが明らかになり、今後はGasdermin Dとの代謝の関連性、とくにfgfrとGsdmdとの構造・機能面での解明も期待される。一方、in vivoでは、イヌリンを経口投与したGasdermin Dノックアウトでは、4NQOを用いた口腔がん誘導モデルから口腔病変形成抑制効果が打ち消されたことから、イヌリンの代謝産物であるbutyrateの腸管および免疫系、とくに口腔粘膜病変形成に与える影響についても研究が必要である。これらの実験は本来の研究計画には無かった項目であるが、Gasdermin Dおよびpyroptosisの生物学的意義や詳細なメカニズムを明らかにする上で重要であり、また本来の仮説や目的を裏付けるデータが得られる可能性が高く、有用であると考えられる。
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