研究概要 |
2008年に始まった世界金融危機は,最近になってヨーロッパの金融危機に飛び火し,世界経済に大きな影を落としている.日本経済の長期停滞期は原発事故によって追い打ちをかけられ,国際競争力も大きく低下した.そうした中で,経済危機の創出過程を解明し,危機脱却の手段を模索するのは急務である. そのためには複雑系的手法と市場の質理論が有効であるという視点に本研究は立脚する.初年度の研究では,複雑系理論を応用し基礎的理論モデルの構築した.モデルに基づき,既存の経済学にはない,独自のアイディアを提示した.この研究の成果は,以下の2点にまとめられる 1.市場の質の低下を引き起こすことで,産業革命が経済危機の原因となる傾向がある 2.危機からの脱却,機後の発展・成長,次代の産業革命の形成には,市場の高質化が不可欠である. この結果に基づき,産業革命後の経済危機からの脱却には,新しい技術に適した市場インフラが必要という理論仮説を設定した.現在の経済危機からの脱却には証券市場,労働市場,国際貿易,教育などの高質化が不可欠とみて,実証研究を進め,この仮説の検証に多くの成果をあげ,今後の研究の基礎を作った. 同時に,実証研究の基礎を形成する複数のデータ構築プロジェクトにも着手した.現在構築中の主なデータは,(1)資本市場・証券市場に関する人々のイメージと投資行動に関するパネルデータ,(2)市場競争の環境を設定する法やルール,コンプライアンスに関する人々の意識に関するデータ,(3)危機に直面した人々の行動と法制度の関係を解明するための調査,(4)教育と成長の関係に関わる調査などである. 本研究は東日本大震災や原発事故からの回復にも重要な意味を持つ.そこで,復興や事故の原因・対策を複雑系・市場高質化という視点から分析し,啓蒙的な情報発信を通じて,広く社会に働きかけていく活動を開始した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
業績調書にも示したとおり,理論・実証分析においても,データ構築においても,予期した以上の研究成果が生み出された(直接的にテーマに関係したり,その基礎を与える研究として学術論文25本).また,研究のスコープを東日本大震災や原発事故という危急の問題にも広げて,その原因や事故回避・復興といった問題に関して,一般向けの報告などを行った(一般向け研究報告9回,論文1本).
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今後の研究の推進方策 |
危機に関する理論研究や実証研究を継続する.パネルデータについては,データの性格上,本研究の終了後も継続できる可能性を常に模索していく.その他のデータ構築は必要に応じて行う.本研究テーマの国際的な浸透を図るために,これまで構築してきた研究ネットワークを拡充する.そのために,国際会議を主催したり,海外の国際会議へできるだけ多くの研究者を派遣する.特に共同研究に従事している若手研究者に海外での研究報告の機会を増やし,国際ネットワークに参加する研究者の層を広げる. 初年度は,既存のデータを利用した実証を中心に研究を行ってきたが,本研究で構築したデータを早急に整理し,それに基づく実証研究も早期に開始する.東日本大震災や原発事故に関する研究を深め,単に純粋に学術的な成果を求めるだけでなく,広範囲な社会貢献を目指し,より啓蒙的な活動を展開する.
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