研究課題/領域番号 |
23000001
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
矢野 誠 京都大学, 経済研究所, 教授 (30191175)
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研究分担者 |
柴田 章久 京都大学, 経済研究所, 教授 (00216003)
太田 勝造 東京大学, 法学(政治学)研究科(研究院), 教授 (40152136)
西村 和雄 京都大学, 経済研究所, 名誉教授 (60145654)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 経済分析 / 複雑系分析 / 市場の質 / 判断力 / 法制度 / 震災 / 原発事故 |
研究概要 |
2008年に始まった世界金融危機は,最近になってヨーロッパの金融危機に飛び火し,世界経済に大きな影を落としている.日本経済の長期停滞期は原発事故によって追い打ちをかけられ,国際競争力も大きく低下した.その中で,経済危機の創出過程を解明し,危機脱却の手段を模索するには,複雑系的手法と市場の質理論が有効である. 本年度は,初年度の理論研究とデータ構築を継続し,これまでの結果に基づく,実証研究に特に力を入れ,大きな成果を上げつつある.また,理論研究でも,経済危機と情報の関係についてのゲーム論的分析に一定の目途をつけるなど,今後の研究の基礎を形成した. 具体的な研究成果は以下のとおりである. 市場の質という視点から,過去三回の産業革命を一元的な原因から形成された革命サイクルととらえ,その背後にある「市場の質動学」を知的財産権保護と関係づけながら説明を行った.同様の視点から,動学的均衡における期待(いわゆるケインズのアニマル・スピリット)の役割や国際間の景気循環の伝播について理論研究も行った.経済危機における政府による情報提供と家計の意思決定メカニズムの関係を分析する基礎となるゲーム論的な基礎的モデルを構築した. 実証面では,経済危機,事故,災害等と法システムの関係について,多面的な実証的調査や復興に向けた資本形成と株式市場のイメージとの関係を特徴づけるデータ構築を行い,経済主体の持つ主観的イメージの持つ経済活動への影響はバブル創出のメカニズムを明らかにした.また,金融市場の不完全性や質と自然資本の蓄積との関係や衰退産業の衰退過程を実証的に分析した. 同時に,啓蒙的な情報発信を通じて,広く社会に働きかけていく活動にも力を入れた.特に,過去の経済学者に学ぶというテーマで,市場の質や経済危機への対策を考察し,アダム・スミスとアルフレッド・マーシャルの経済学を再評価し,高い評価を得た.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
前年度に続いて,理論・実証分析ともに,予期以上の研究成果が生み出された(直接的にテーマに関係したり,その基礎を与える研究として学術論文26本).また,データ構築でも興味深い結果が得られ,現在解析中である.パネルデータの構築とインターネット調査を平行して行うことで,予期以上の結論が得られることを確認した.東日本大震災や原発事故に関する実証研究にも力を入れ,経済危機,事故回避・復興といった問題に関して,一般向けの報告や執筆を行った(一般向け研究報告10回,論文13本).
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今後の研究の推進方策 |
経済危機に関する理論研究や実証研究を継続する.特に,24年度に行われた現地調査でのコメントを受け,東日本大震災からの復興や原発事故の原因究明に関して,複雑系的視座の有効性を示すために,理論構築,データ構築,実証研究を行う.また,四半世紀に及ぶ長期停滞からの脱却にとって資本市場と労働市場の高質化が不可欠という視点を理論的,実証的に証明するために,パネルデータやインターネット調査によるデータ構築を強化する.高質な市場の形成による危機管理という視点から,実証的に,危機に対する抵抗力の強い社会インフラのあり方を解明し,政府の新しい政策のあり方を解明する. 研究成果の国際的な発信と海外での最新の研究との接点の形成に向けた活動に力をいれる.国内での国際会議の主催だけでなく,海外で国際会議開催や海外の国際会議へ多くの研究者を派遣するなど,国際研究ネットワークを拡充する.若手研究者の海外での研究報告機会を増やし,国際ネットワークに参加する研究者の層を広げる.こうした活動を通じて,経済危機を市場の質と複雑系という視点から解明するという本研究の基本的なアイディアの国際的浸透を図る. 本研究の成果を社会に還元するため,一般向けシンポジウムや啓蒙的な書物・論文の出版を図る.また,旧来の情報発信メディアとインターネットという新しい情報発信メディアを複合的に利用し,一般社会に対し本研究の視点の発信と定着を図る方法を模索することも今後の大きな課題である.特に,東日本大震災や原発事故に関する研究をさらに拡充し,純粋に学術的な成果を求めるだけでなく,広範囲な社会貢献を目指し,より啓蒙的な活動を展開する.特に,我が国では立ち遅れている法と経済学分野での啓蒙活動に力をいれ,資本市場や労働市場の高質化,市場高質化や健全な発展成長の基礎となる教育制度といった問題に関し,本研究の研究成果の一般社会への浸透を図る.
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