研究概要 |
24年度に行われた現地調査でのコメントを受け, 経済危機に関する理論研究を進め, 実証研究を継続した. また, 5年計画の中間点に立って, 活動を見直し, 新たな視点の構築につとめた. 科学技術振興と市場高質化が危機脱却の両輪として機能するという認識に立ち, 複雑系システムを構築した. このシステムは今後の理論研究, 実証研究の基礎となるものである. 具体的な研究成果は以下のとおり. 1. 社会科学的素養の未成熟さが原発事故の真因であるということを実証するために, JHPSパネルデータ(京都ウェーブ)やインターネット調査に基づいてモデル構築を行った. 2. 長期停滞からの脱却には, 資本市場の高質化が不可欠という視点で, JHPSデータやインターネット調査に基づき, 証券市場の質の指標化を行い, 有用性を確認した. 3. 市場高質化におけるエビデンス・ベース・ポリシーの役割を, 大恐慌後のアメリカ経済のダイナミックスの分析を通じて明らかにした. 危機生成メカニズムを政府の情報発信プロセスとして分析するための基礎となる, チープトークモデルを開発し, 情報のバイアスの決定要因を明らかにした. 4. 市場の質の指標を構築し市場の質の国際比較に成功した. 市場の持つ自然不安定性と現実的な均衡経路の不安定性の関係を社会インフラを構造パラメタとして, 現在構築中のパネルデータに基づいて実証的に分析するために, 中国の経済発展にもとづくモデル開発に着手した. 5. 研究成果の国際交流に力をいれ, 若手研究者の海外での活動機会を増やした. 国際的な場で市場の質や複雑系研究を定着するために, 国際学術誌の編集制作を開始した. 6. 本研究の成果を社会に還元するため, 一般向けシンポジウムや啓蒙的な書物・論文の出版した また, 旧来の情報発信メディアとインターネットという新しい情報発信メディアを複合的に利用し, 一般社会に対し本研究の視点の発信と定着に成果を上げた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
前年度に続いて, 理論・実証分析ともに, 予期以上の研究成果が生み出された(直接的にテーマに関係したり, その基礎を与える研究として学術論文42本). 構築したデータに基づいて, 証券市場の質の指標化を行い, 日本よりもアメリカの方が高い質の証券市場を持つことを確認した. さらに, 各国の平均的な市場の質の指標化にも成功した. こうした成果は10数年前に市場の質研究を開始した当初から目指されてきたものであり, 理論やデータの充実を通じて初めて実証的成果として結実したものである. また, 市場は科学技術を豊かに転換するパイプであり, 市場の質はパイプの質に相当するという視点を導入し, 市場の質という抽象概念を一般の人に分かりやすく説明し, その重要性の説得力を高めることにも成功した.
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今後の研究の推進方策 |
引き続き, 前年度からの研究チームによって, 研究活動を継続する. また, 26年度では, 1. 我が国の長期停滞とそこからの脱却について : 郵貯・実物資産保有が資本形成の阻害要因になっているかなど, 実物資産と金融資産の代替性を示すデータに基づいて, 資本市場の高質化を担保できる社会インフラの構造を解明する. また, 株式市場のイメージや参加率の決定要因を分析し, 「資本市場の厚み」を創出するための社会インフラを解明する. 2. 世界金融危機の形成プロセスと市場を支える構造の再構築 : 市場高質化のプロセスとモラルの関係について, 実証的な研究を行う. 特に, クリーンな政府の存在が経済成長に貢献するか, 市場開放度と汚職が相乗効果を持って, 成長を遅らせるか, などのテーマについて, 理論構築と実証研究を行う. 3. 原発危機 : 危機発生のメカニズムをゲーム論的な側面から解明する. 特に, 政府が提供する危機の状況に関する情報に, バイアスがかかるプロセスを解明する. 4. 経済危機と市場の質の複雑系循環の分析 : 知的財産権の保護が産業革命サイクルを引き起こす可能性について, 応用技術の中で, 真に革新的な技術が形成されるメカニズムを明らかにする. 研究の最終年度に向け, 同時に, 研究成果をまとめ, 一般向け書物や研究書として出版するための準備を開始する. 海外の学会と協力し, 国際研究集会を主催し, 研究成果の海外に向けた発信と定着を図る. さらに, 市場が科学技術や地球資源を豊かさに転換するパイプであるという視点に立ち, 市場の質を特徴づけ, 市場の質の決定要因をデータの国際比較に基づいて明らかにする.
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