研究実績の概要 |
当初の計画に沿って, 2008年の世界金融危機の分析と対応策を中心テーマに, 市場の質という視点から研究活動を進めた. さらに, 計画申請中に発生した東日本大震災と原発事故をテーマに加えた. 特筆すべき具体的成果として, 既存のデータとは全く異なる新しいデータ構築により, 『金融危機後の回復の遅れの原因が, 一般に言われるような日本経済の特殊性にあるのではなく, 金融政策のデザインにあること』や『自然災害や巨大事故に直面し, 多くの日本人は, 『自分と比べ他人は総じて危機に際して冷静な行動ができないと考えるという一種の愚民観をもつこと』を発見した. こうした特性が我が国の市場高質化を阻む要因となっており, 新成長経路構築に向け, その改善が望まれることが示された. さらに, 研究を支える基礎的なデータ構築と広範囲な理論・実証研究を進め, 多数主体, 期待, 財政赤字などの要因が経済の安定性に与える影響や市場高質化と法システムの間の共進化の実証的データ蒐集のための調査などを実施し, 様々な成果をあげた. 第4年次までは, データ構築と平行して, データに基づく予備的な実証研究を進めた. 最終年度には, データの整備と, データに基づく理論・実証研究の完成に力を入れた. 最終年度には, 『金融危機からの回復が遅れたのは, 2012年末までの公開市場操作は残存期間が短い国債を買いすぎたためであること』, 『愚民観の存在する社会では, 政府の提供する情報にバイアスがかかりうること』など, 既存研究にはない全く新しい成果が生み出された. 後者の研究では, 『事後的ネオロジズム』という新しい概念が提示され, 今後の研究の展開が期待される. さらに, 情報バイアスの影響を敏感にとらえるため, ビッグデータを活用した研究も開始した.
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