研究課題/領域番号 |
23000002
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
山本 均 東北大学, 理学研究科, 教授 (00333782)
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研究分担者 |
山下 了 東京大学, 素粒子物理国際研究センター, 准教授 (60272745)
藤井 恵介 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構, 素粒子原子核研究所, 准教授 (30181308)
宮本 彰也 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構, 素粒子原子核研究所, 准教授 (50174206)
杉本 康博 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構, 素粒子原子核研究所, 講師 (70196757)
杉山 晃 佐賀大学, 理工学部, 教授 (80187674)
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研究期間 (年度) |
2011-05-31 – 2016-03-31
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キーワード | 国際リニアコライダー / 素粒子検出器 / 半導体検出器 / 電子デバイス / ヒッグス粒子 / ネットワーク / 素粒子の標準理論 |
研究実績の概要 |
ILC測定器の国際グループでは、組織の再編と測定器のパラメータの見直しを始めた。そのなかで我々の研究グループは検出器開発と物理解析/測定器最適化の両面において主導的役割を果たしている。また、文部科学省はILC誘致の是非に関して有識者会議を設立して、その科学的意義と計画の成熟度の両面において審議をはじめた。我々は、とくに物理解析/測定器最適化の活動を通して科学的意義の審議に情報提供するとともに、測定器に関する計画の成熟度に関して、測定器コストと必要なマンパワー、建設期間などの情報を提供した。以下、各タスクの実績概要を述べる。 (反応点検出器)高抵抗の15ミクロン厚エピタキシャル層を持つ4種のピクセルサイズを持った小型CCDを開発した。消費電力を抑えるため3つの出力レベルを持ったクロックドライバーを開発し、小型プロトタイプCCDについて、中性子に対する放射線耐性試験を行った。 (飛跡検出器)使用に耐える高開口率のGEM型ゲート装置を開発し、プロトタイプ(10cm x 10cm)の製作および、1T磁場環境のもとで電子透過率の測定してシミュレーションにより検証した。また、新しいモジュールに向けたガス増幅機構を開発し、読み出しエレクトロニクス用冷却構造に関しての基礎試験をおこなった。 (SciCAL)シンチレータ電磁カロリメータのセンサー部と読み出し電子回路部を統合して積層構造をもつ薄い基盤を3枚構成し、各種テストを日本で行って調整した後CERN研究所において統合ビームテストを実行した。ストリップハドロンカロリメータは、ストリップ長の異なる4層を製造し、日本で調整した後CERNでのビームテストを行った。 (SiCAL)シリコンパッドセンサーの特性を多方面から調べ、ガードリング無しのセンサーの有用性を確認するとともに、中性子照射試験を行い、性能劣化の度合いを調べた。ハイブリッド方式を含む電磁カロリメータの最適化を進め、縦横の構造の違いに対するカロリメータ性能の応答を系統的に調べた。読み出しASICの試験および、シンチレータ方式との協調動作のためのソフトウェアの改良を行い、スイスのCERNにて行われたビームテストにおいて実証を行った。シリコンセンサー大量検査のための自動ステージを導入し、駆動ソフトウェアの開発を進めた。 (測定器最適化)飛跡検出器など測定器の測定器パラメータの最適化のために、ヒッグス粒子とトップクォークを中心とした物理を検討し、それを用いて物理結果が用いて解析を行った。粒子のエネルギー損失やカロリメータのシャワー発展の情報を用いることにより、粒子識別を改良した。それらを用いてILCの物理性能を向上しその結果は文科省有識者会議への重要な情報となった。 (ソフトウェア)ILD標準MCサンプルの作成に使用しているGRIDのツールをBelle-IIグループなどで使われているDIRACを用いたものに更新し、ソフトウェアーおよび作成データの維持管理の利便性を高めた。 (荷電粒子飛跡再構成)TPCビーム試験データおよびレーザービーム試験におけるヒット点歪みについて、シミュレーションで観測された歪みの主要部分の再現に成功、補正法を確立した。また、分割ヘリックス飛跡モデルによる非一様磁場中の飛跡再構成プログラムを、実際のILD測定器の磁場マップと組み合わせ、実機に対する性能試験を行い、理想的な磁場中の飛跡再構成に比して遜色ない結果を得た。 (測定器インテグレーション)地下に設置する実験室空洞と地表を接続するトンネルを幅・高さ共に11mの横坑から直径18mの立坑へ変更した場合の、測定器の組み立て方法や近隣の港湾等から物品を輸送する手段を検討し、立坑でも測定器のインテグレーションが可能であり、必要な期間を短縮する可能性のあることが分かった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
全体としてはおおむね順調に進展していると判断するが、それは各々のタスクの達成度を総合的に判断したものである。いかに各タスクの評価と理由を述べる。 (反応点検出器 : やや遅れている)平成26年度にはラダー構造体の開発を開始する予定であったが、CCDの特性評価に集中したため、開始できなかった。 (飛跡検出器 : おおむね順調に進展している)プロトタイプのゲート装置は1Tにおいても80%の電子透過率を示す結果を得ることができ、実験での使用に供することが確認できた。また、シミュレーションからILCで使用する3.5Tにおいても80%の透過率を達成できることが期待でき、実機製作へと進むことが可能になった。読み出し回路の冷却では、高熱伝導部材の使用により効率的な排熱方法が提案できた。 (SciCAL : おおむね順調に進展している)シンチレータ電磁カロリメータは、読み出し回路を積層し、当初の計画通り、製造工程をマスターし、現在細かな調整に入っている。ストリップハドロンカロリメータは、シミュレーション結果待ちであり、またプロトタイプ制作も積層型読み出し回路まで到達していない。 (SiCAL : おおむね順調に進展している)ガードリングを排除したセンサーの評価が順調に進展しており、平成27年度までに評価が完了する見込みとなった。大量検査についても準備が概ね完了し、平成27年度の実証試験により方法が確立できる見込みである。既存の問題点を解決した新しいプロトタイプの開発もフランスと協力して進めており、平成27年度に試験を行う。ハイブリッド電磁カロリメータについても、シミュレーションによる最適化、統合読み出しシステム開発の両面から研究が進展している。 (測定器最適化 : おおむね順調に進展している)測定器最適化の指標となる物理解析はおおむね順調に進展し、解析方法の改良により結果が大きく向上したものもあり、その結果は文科省有識者会議への重要なインプットとなった。物理解析のためのツールの開発もほぼ性能評価は終わり、また様々な点において物理結果の向上が見込まれることが分かった。 (ソフトウェア : おおむね順調に進展している)当初の計画では、現実的な測定器シミュレーターを作成し、国際協力でGRIDを活用した国際解析体制を確立することを目標していた。今までに、日欧が相互に分担して解析する体制は確立している。DIRACツール小規模計算にしか使用されていないが、大規模MCデータ作成のための環境は整った。 (荷電粒子飛跡再構成 : 当初の計画以上に進展している)レーザービームを用いたテストベンチが整備できたため、モジュール内電場歪みによるヒット点歪みの系統的なデータが得られ、シミュレーションにより荷電粒子ビーム試験の結果を含めて歪みを定量的に理解できたのは当初の計画以上の成果である。また、分割ヘリックス飛跡モデルによるKalman filterを用いた飛跡再構成プログラムを実際的な非均一磁場で試験した所、手直しを要することなく設計通りの性能が得られた。 (測定器インテグレーション : やや遅れている)測定器のインテグレーション方法について様々な検討が進行しているが、ILC全体施設の検討や変更に対応してインテグレーション方法が確定的なものにならないために、当初計画した測定器の組み立てに必要な治具等や1万トンを超す測定器を迅速かつ正確に入れ替える装置の設計が進んでいない。
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今後の研究の推進方策 |
来年3月までに結論を出す予定であるILCに関する有識者会議に対して物理と測定器関連の必要なインプットを行うとともに、個々の測定器開発と測定器最適化のノウハウを生かして、現在進行しているILDの組織再編と測定器設計の見直しにおいて、主導的役割を果たす。以下、各タスクの推進方策を示す。 (反応点検出器)平成27年度にはCCDの特性評価を継続するとともに、CFRP製のラダー構造体の開発に着手し、CFRP板の上にベアチップのCCDと読出しASICを搭載したプロトタイプラダーの試作を行う。 (飛跡検出器)新規モジュールの製作に必要な要素技術の開発がほぼ完了し、実機型モジュールの設計をおこない試作、性能試験へと進めることができる段階に達した。要素技術を組み合わせるための細部の設計を詰め最終デザインを制作することで本研究を完結する。 (SciCAL)シンチレータ電磁カロリメータは、細かな調整を施し再度テストビームに於ける性能試験を行う。またシンチレータストリップハドロンカロリメータはシミュレーションに基づいた再設計ののち本年度ビームに於ける試験を行う。 (SiCAL)昨年度納期が間に合わず繰り越し執行となった厚みや抵抗率の異なるセンサーの評価を行い、ILC測定器に最適なデザインを提案する。実際にセンサーを用いて大量検査の試験駆動を行い、方法を確立する。読み出し回路一体型の新プロトタイプの試験を行うとともに、大量生産に備え国内での回路製作を行う。ハイブリッド電磁カロリメータの最適化を完了し、最適な設計を提案する。 (測定器最適化)これまで研究されている解析のためのツール(粒子のエネルギー損失、カロリメータでのシャワー発展等)を組み込んで、今後の物理解析のための新たなシミュレーションに生かし、これから行われるILD測定器の新たな最適化の国際的活動を主導する。また、並行してそれぞれの物理解析固有の新たな解析手法の検討をして、それぞれの物理結果の向上を目指す。 (ソフトウェア)DIRACを使ったMCデータ作成環境は整ったので、今年度はこれを用いできるだけ多数のデータ作成を国際協力で行い、問題があればその解決を図る。 (荷電粒子飛跡再構成)すでに当初目的を概ね達成したが、現在進行中の測定器シミュレーター、事象再構成プログラムの新しい測定器記述方式(DD4HEP)に即した更新を行い、今後のILD関連ソフト開発の展開に対応するとともに、必要に応じてさらなるコードの効率化を図る。 (測定器インテグレーション)測定器のインテグレーション方法を具体的に検討するためには、近隣の港湾等からの物品の輸送方法や道路から地下への搬入方法等の前提となり得る条件を調査することが必須である。実験室空洞の建設候補地となり得る範囲が絞り込まれつつあるので、具体的な条件を明らかにした上で、実現可能なインテグレーションのシナリオを作る。
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