研究課題/領域番号 |
23000004
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
常深 博 大阪大学, 理学研究科, 教授 (90116062)
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研究分担者 |
國枝 秀世 名古屋大学, 理学研究科, 教授 (00126856)
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研究期間 (年度) |
2013 – 2016
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キーワード | 宇宙科学 / 宇宙物理 / X線天文学 / 人工衛星 / 宇宙線 / SDCCD / X線望遠鏡 |
研究実績の概要 |
FFAST用の硬X線望遠鏡(HXC)は、ひとみ衛星搭載のX線CCDカメラ(SXI)を基本とし、使用する素子をNeXT4からSDCCDに変更したものである。SDCCDはシンチレータをCCDに直接貼り付けた素子で、必要な個数を揃え、カメラとして組上げている。衛星搭載条件として、電磁障害(EMI)試験を実施し、ほぼ全ての周波数帯にわたり、ひとみ衛星で求められるレベルをクリアしていることを実証した。さらには、FFASTとひとみ衛星では周波数帯による制限が異なるため、その異なる衛星環境においても条件をクリアできることを確認した。HXCに用いる周辺信号処理回路は、軌道上で1年程度の寿命を見込んでおり、それを満足するパーツで製作を完了している。こうしてセンサーとしては待機状態にある。機械式冷凍機は2台搭載可能であるが、予定通り1台で十分性能の出ることを確認した。 2015年6月、X線照射実験に向けて望遠鏡の組上げを行う過程で、既に作製していた反射鏡フォイルの一部に不具合が見つかった。問題検証した結果、当該フォイルを再製作することになり、最後の1/3周分に対して、その再製作と個別の性能評価が必要となり、予定を遅らせざるを得なくなった。そのため、放射光施設(SPring8)におけるX線照射実験について再申請した結果、2016年4月と7月に実施できることになった。 ASTRO-H衛星は2016年2月に打ち上げられ、無事に軌道に載り、ひとみと命名された。搭載したSXIは順調に立ち上げが進み、正常観測体制に入った。これにより、SXIに準じて準備しているHXCも衛星環境での正常動作をほぼ確認できた。FFASTの狙う小型科学衛星計画について、我々は一昨年度末に、3号機を目指して理学ミッションとして申請したものの、採択には至らなかった。そこで、昨年度末にはJAXAの工学部門を中心にして三菱重工の協力を得て、工学ミッションとして申請している。今後も編隊飛行を念頭に置いた計画として工学グループとの密接に協力して進めていくことを確認している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
FFAST衛星計画は小型科学衛星での実現を目指している。衛星計画を効率よく進めるために、中型科学衛星ASTRO-Hでの開発資産を上手く利用する予定であり、それを前提に進めている。ASTRO-H衛星は2016年2月に軌道に載り、ひとみと名づけられた。この計画の遅れのため、その分だけFFAST衛星で必要な観測装置や望遠鏡の開発が遅れたものの、HXCの開発は最後の放射光による調整を残して完了した。また、ひとみ衛星に搭載したSXIの軌道上での動作も確認されたので、開発製作はほぼ完了した。 HXC製作の懸念の一つは、形状・表面粗度において良質の多層膜反射鏡フォイルの大量生産であった。望遠鏡は3分割構造であるが、そのうちの2個分についての調整まで完了している。最後の部分の調整は、フォイル製作に遅れが生じたため2016年度にずれ込むことになった。 FFASTの準備は予定より遅れているものの、小型科学衛星3号機を目指して申請したが、採択には至らなかった。そこで工学部門を中心として、小型科学衛星4号機を狙い申請している他、小型科学衛星計画以外にも、工学ミッションを主とした編隊飛行計画案の中に、理学観測としてFFASTを実現する道などの可能性も追求している。
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今後の研究の推進方策 |
FFASTはASTRO-H搭載機器の開発を基礎に置いた衛星計画ではあるが、低高度地球周回衛星で、ミッション期間として1年を想定している。そこで、二機の衛星からなるものの低コストを念頭に置き、JAXAの工学部門と三菱重工の協力の基に小型科学衛星3号機へ申請したが不採択であった。それを受け工学部門を中心にして4号機へ申請した(2016年2月末締切)。2016年3月にはヒアリング等が行われた。我々の研究計画は、ひとみと命名されたASTRO-H衛星の今後の状況にも依存するが、X線観測全体のロードマップ等の検討を踏まえて行く必要があると判断している。 我々はひとみ衛星の計画に従ってFFAST搭載機器を開発製作している。つまり、FFAST搭載機器は、ひとみ衛星搭載のX線CCDカメラ(SXI)と硬X線望遠鏡(HXT)とをベースに開発しているので、その総合試験や軌道上での動作を確認すれば開発は完了する。これまでのところ、ひとみ衛星の初期動作確認においてSXIは正常に動作し、宇宙環境での動作に問題のないことを実証した。今後は長期間にわたる衛星運用を通し、場合によっては想定外の環境温度変化に伴いどのような反応をするか、あるいは長期間にわたる宇宙線照射に起因する性能劣化の状況などが判明するだろう。これらはFFASTにとって重要な参考資料となるので正確にモニターし、可能な範囲で対応するソフトウェアーなど環境整備を進める。バスシステムについては、三菱重工の協力を基に低コスト化を検討し、二機の衛星の機器の共通化を一層進める。 小型科学衛星3号機は不採択となったが、FFASTの科学目標については、より一層丁寧に説明するしかない。つまり、AGNの進化においてはダウンサイジングが指摘されており、その不思議を解明するために様々な強度のAGNの分布を調べる必要がある。これは単独の観測装置では実行しきれないものであり、その一翼を担うのがFFASTである。これを更に発展させた観測を可能にする計画を検討し、将来のAthena計画などロードマップに繋がるようにする。一方、JAXA内の工学グループからの要請もあり、4号機においては工学ミッションとして申請した。これは工学グループが主体となっているが、サイエンスミッションとしてはFFAST計画とほぼ同じである。 HXCに使用するスーパーミラーはひとみ衛星に搭載しているHXTとほぼ同じである。2015年度内に最後の1/3周分の最終調整を完了する予定であったが、組上げ中にフォイルの一部に問題のあることが判り、フォイルの再製作が必要と判断した。最終調整が2016年度にずれ込むことになったため、予算の繰越申請を行った。SPring-8におけるマシンタイムは既に配算済みで、2016年度前半にHXCが完成する予定である。
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