研究課題/領域番号 |
23000005
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研究機関 | 独立行政法人日本原子力研究開発機構 |
研究代表者 |
永井 泰樹 独立行政法人日本原子力研究開発機構, 原子力科学研究部門原子力エネルギー基盤連携センター, 客員研究員 (80028240)
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研究分担者 |
橋本 和幸 独立行政法人日本原子力研究開発機構, 原子力科学研究部門 原子力エネルギー基盤連携センター, 研究主幹 (80414530)
塚田 和明 独立行政法人日本原子力研究開発機構, 原子力科学研究部門 先端基礎研究センター, 研究主幹 (30343916)
今野 力 独立行政法人日本原子力研究開発機構, 核融合研究開発部門 六ヶ所核融合研究所, 研究主幹 (90354729)
飯田 靖彦 鈴鹿医療科学大学, 薬学部, 教授 (60252425)
上田 真史 岡山大学, 医歯薬学総合研究科, 准教授 (40381967)
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研究期間 (年度) |
2011-05-31 – 2015-03-31
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キーワード | 実験核物理 / 加速器 / 核医学 / 放射線 / 医療・福祉 |
研究概要 |
99Mo : 1)原子力機構の加速器で得られる中性子を濃縮100Mo試料に照射して99Moを製造。この99Moから昇華法で分離・精製し抽出した99mTcの放射性核種純度を半導体検出器で、化学純度を質量分析器で、医薬品への標識率を薄膜クロマトグラフィで測定。これらの緒品質が市販のものと同等であることを確認。2)加速器中性子で得た99mTcを製剤メーカーに提供、医薬品に標識したものを小動物に注射しその画像を撮影。一方、市販の99mTcを含む医薬品を小動物に注射して画像をとり、両者を比較し同等であることを確認。この結果、加速器中性子で製造される99mTcが市販の放射性医薬品と同等の品質を持つことを示す世界初の結果。ところで、3)昇華法については、MoO3試料の量が増加(10g程度以上)したり、ミルキング回数が増えると99mTcの分離効率が激減するという30年来の未解決の課題があったが、本研究で独自の研究手法を用い詳細な研究を重ね上記2課題を解決。また、4)大量の髙品質99Moを製造する本方式の世界初のテストを、原子力機構のサイクロトロンで実施した。40MeVの重陽子を炭素標的に照射して生成される髙速中性子を濃縮100Mo試料に照射して99Moを製造し、この99Moの放射性核種純度の測定によりその髙純度性を初めて明確にした。 64Cu, 67Cu : 1)原子力機構の加速器で得られる中性子を濃縮及び天然のZn試料に照射し64Cu及び67Cuを生成。本研究用に製作したイオン交換分離用装置を用い、無担体の64Cu及び67Cuを抽出。64Cu, 67Cuの品質を99Moと同様の方法で調べ、放射性医薬品としての髙品質を有する事を確認。2)同機構のサイクロトロンで得た髙速中性子を濃縮68ZnO試料に照射し67Cuを製造、イオン交換法でZnOから67Cuを分離精製、抽出した67Cuの放射性核種純度、放射化学純度を測定、従来の陽子による製造法に比し極めて髙い核種純度の67Cuを製造できることを実証。3)64Cuを利用したがん診断薬開発のため、64CuHP誘導体を合成し、ヒト乳腺がん細胞等をヌードマウスに移植した結果、64CuHPを用いたがん診断の可能性が実証。4)64Cu標識用新規配位子として、ペプチド性キレーターの開発に成功。腫瘍微小環境に発現するCTLA-4および潰瘍性大腸炎で発現亢進する標的分子に対する抗体を64Cuで標識し、各標的に対するイメージングプローブとしての有効性を実証。 90Y : 1)加速器中性子を濃縮90Zr試料に照射し90Yを生成。陰イオン及び陽イオン交換法で90Yを分離精製し、抽出した90Yの放射性核種及び放射化学純度を調、医薬品としての品質を確認。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
99Mo : 加速器中性子で99Mo を生成、99mTc を昇華法で分離・精製し、抽出した99mTcの放射性核種純度、99mTと医薬品の標識率、放射化学的純度及び小動物体内分布を測定し、既存医薬品の測定結果と同等であることを確認。(計画通り)。更に昇華法の30年余の課題(モリブデン試料の量が10g程度以上になると、また99mTcを抽出するミルキング回数が多数回になると99mTcの分離率が激減する欠点)を初めて解決し、昇華法技術を確立。昇華分離効率を安定に向上する方法を発見。さらに、多量高品質99Mo製造に向け、40MeV重陽子を炭素標的に照射・生成した高速中性子を用いて99Moを生成しその高い核種純度を初めて実証。以上は、当初計画を超えた成果で、加速器中性子による99Mo/99mTc製造に道筋をつける重要な意義がある。 67Cu : 放射線内用療法で次代の有力なRIと評価されているが、30年来製造法が開発中で未確定。本研究で40MeVの重陽子を炭素標的に照射し得られる中性子を68ZnO試料に照射して67Cuを製造。従来の課題(67Cu製造量が少ない、放射性核種純度が悪い、濃縮68Zn試料の再利用が至難)が、創薬の開発研究を停滞させていたが、この事態を打開する製造法であることを実証。67Cuはイオン交換法で高品質のものが抽出。以上、世界の長年の課題を解決するもので、当初計画をこえる成果。また、64CuHP誘導体を担がんヌードマウスに用い腫瘍集積性を向上する目的を達成。64Cu標識プローブの動物を用いた動態評価・イメージング目的を達成。 以上、99Mo/99mTcの安定確保が世界の課題である点、今後の内用療法用の67Cuの製造法の確立が急を要する事態であることを受け、本年度の成果を踏まえ、「当初の計画以上に進展している」と判断。
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今後の研究の推進方策 |
99Mo : 昇華法での99mTc の分離効率の更なる向上を実現する。そのため、昇華装置内のMoO3試料の温度条件の最適化を図ること、昇華分離中のMoO3試料の蒸発損失量を抑制することを目指す。また、我々のこれまでの成果を踏まえ200g程度以上のMoO3試料利用の目途を立てる。照射されたMoO3試料から99mTcが分離抽出されるメカニズムを解明する。この研究は、放射性同位体を用いて初めて可能となる研究であり、我々が解決した昇華法の従来の課題(MoO3の量が増える、ミルキングの回数が増えると熱分離効率が激減する)の総合的解決につながると共に、新しい研究分野をひらく可能性を持つ。 64,67Cu : 確立した照射済ZnO試料の分離・精製法に従い、加速器中性子で製造した64,67Cu最終液中に含まれる化学的不純物の評価を実施。イオン交換で分離抽出した64,67Cuを用い標識化合物を合成し、放射化学純度を確認する。大量製造を目指して、鉛セル内で製造できるように、遠隔操作(自動化)が可能な装置を検討する。原子力機構 高崎量子応用研究所内にあるサイクロトロンを用いて、40MeVの重陽子ビームを炭素あるいはBe標的に照射し高速中性子を発生させ、64,67Cuの製造研究を行い、実用化に向けた基礎データを取得。細胞接着分子であるインテグリンへの親和性を有するRGDペプチドの導入、EPR効果による腫瘍集積を期待した多量体の利用などにより、腫瘍集積量の向上を図る。またHPの誘導体化はHPと64Cuの錯形成を妨げる因子となっているため、標識方法を改善し、標識率の向上を目指す。64Cu標識薬剤を用いたPETによるインビボイメージングの有効性を示し、64Cu標識薬剤を臨床で使用する際の投与量、撮像時間、評価方法および吸収線量の評価を行っていく。64Cu標識プローブの動態評価・イメージングを行い、有望なイメージングプローブの開発を行う。 90Y : 原子力機構の加速器で合成する88Zrと88Yトレーサーを利用してイオン交換樹脂を選定する。合成法の詳細を決定し、コールドランによって、最終的に得られるYC13に含まれる不純物の同定を行う。また、FNSにて合成した90Yを利用し、液シンを用いた90Yの定量方法の検討を進める。半自動の分離システムを構築する。髙崎研のサイクロトロンを用い、濃縮ターゲットの照射を行い、40MeV重陽子照射で発生する加速器中性子を利用した90Y実際の生成量の確認を行うと共に、副生成物の生成を確認する。 まとめ : 最終年度のため、これまでの成果をまとめ公表すると共にその準備を終える。
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