研究課題/領域番号 |
23000006
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
鈴木 啓介 東京工業大学, 大学院理工学研究科, 教授 (90162940)
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研究分担者 |
大森 建 東京工業大学, 大学院理工学研究科, 准教授 (50282819)
安藤 吉勇 東京工業大学, 大学院理工学研究科, 助教 (40532742)
瀧川 紘 東京工業大学, 大学院理工学研究科, 助教 (70550755)
高橋 治子 東京工業大学, 男女共同参画推進センター, 助教 (40297601)
松本 隆司 東京薬科大学, 薬学部, 教授 (70212222)
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研究期間 (年度) |
2011-05-31 – 2016-03-31
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キーワード | 酸化 / 多環芳香族 / ポリケチド / 複合糖質 / ポリフェノール |
研究実績の概要 |
昨年度までに得られた知見をもとに、引き続き高度に酸素官能化された複合糖質、ポリケチド、ポリフェノール類およびビアリール系芳香族化合物の効率合成を可能とする方法論の開拓を行った。また、実際にそれを活かし天然物の全合成を実践した。以下に具体的な成果を示す。 1) 芳香族化合物の合成研究 : 昨年度、全合成に成功したデルモカナリン2の合成経路や各工程の条件を見直し、その効率性を高めることに成功した。また、フルオロベンゼン誘導体を用いた。新規キサントン骨格の構築法を見出した。 2) 多環性ポリケチド類の合成研究 : 昨年度までの検討により、従来提案されていた抗腫瘍性化合物プレオスプジオンBの構造に誤りがあることが明らかになっていた。そこで、本年度の研究では、他に可能性のある3つの立体異性体のうちの2つをあらためて合成した。しかし、それらもまた天然物と一致しないことが分った。したがって、天然物の真の構造は未確定のままであるが、本研究を通じて見出した芳香環の新たな酸素官能化法は、様々な関連化合物の合成に有効であることが示された。 3) 複合糖質の合成 : 本年度においてはプルラマイシン系抗腫瘍性天然物の合成を目指し、その側鎖部の不斉合成を行った。さらに、鍵となるピラノン環の構築に関し検討した結果、シリルトリフラートを活性化剤とする新たな環形成法を見出すことができた。 一方、C2-対称型ビスラクトン構造を母骨格に有するビスC-グリコシド化合物、アルジメリンの合成研究を行い、そのモノマー単位の合成経路を開拓した。さらにそれを用いて2量化を行い、天然物の保護体の合成に成功した。 4) ポリフェノール類の合成 : 大豆などに多く含まれるイソフラボノイド類は、女性ホルモン様の生理作用を示すことから注目されている。これらの化合物の合成研究を行った結果、アリール基の1, 2-転位反応を鍵とする立体選択的合成法を確立することができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究事業4年目にあたる本年度の研究も全般的に順調に進展した。特にいくつかの天然有機化合物については、予定よりも早期に全合成を完遂することができた。一方、関連する反応の方法論開拓において、期待以上の成果が得られ、各天然有機化合物の研究の進展に大きく寄与した。特にポリケチド系芳香族やポリフェノールについては、当初の計画よりも研究対象が大幅にひろがり、さらなる展開をみせている。一方、研究目的の達成が図られなかった課題についても、問題点を明確にし、それに対して集中的に取り組むことにより、問題解決の糸口となるいくつかの有用な知見を得ることができた。 なお、本研究費の援助により導入した高分解能核磁気共鳴スペクトル装置(NMR, 600 MHz)および質量分析装置(ESI-TOF MS)は、本研究事業において欠くことのできない必須分析機器となっている。これらを活用することにより、従来困難であった複雑な構造を持つ合成中間体および最終生成物の構造解析が著しく促進された。また、本研究で蓄積された分析技術とこれらまでに得られた合成的知見を組み合わせることにより、高次構造をもつポリフェノール類の新たな構造解析方法を開発することに成功した。
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今後の研究の推進方策 |
最終年度にある次年度(H27年度)の方策については、これまでに得られた結果の取りまとめを行い、それを国内外に向けて積極的に発信する。また、計画した研究課題のうち、未達成のものは、進捗状況を随時見極めつつ、柔軟に人員を配置するとともに、研究分担者間の連携も強化して目的を達成したい。さらに、合成した様々な有機化合物の生理活性および物性評価等は、国内外の研究協力者と連携し、これまで以上に積極的に進めていきたい。また、既存のテーマから派生した様々な研究課題についても、より広い視野から研究を俯瞰し、研究開始時には発想できなかったより独創性の高い方法論へ深化させるため、より計画的に検討を進める。以下、今後の研究の推進方策について、項目ごとに簡単に記す。 1) 多環性芳香族ポリケチドの合成研究 : テトラセノマイシン系抗生物質の合成に新たな方法論を取入れる。具体的にはベンザインの反復利用法や新規ニトリルオキシド調製法などを積極的に活用し、効率的な合成経路を開拓したい。 2) 複合糖質の合成研究 : プルラマイシン系化合物の合成では、熱力学的に不利な立体化学(α配置)を有するC-グリコシド構造をいかに選択的に構築し、最終段階までそれを維持するかが一つの鍵となっているが、いまのところそれに対する有効法は見出されていない。そこで本年度はその解決に向け、合成中間体を再設計するとともに、それらをより直截的に合成できる新たな方法論の開拓を行ってゆく。 3) ポリフェノール化合物の合成研究 : これまでに合成した各種の天然類縁体および高次のオリゴマーを十分な量、調製し各種活性評価に供する。また、前年度の検討において見出されたイオフラボノイド系ポリフェノールの合成法を発展させ、より複雑な構造を有するロテノイド系化合物の合成に取り組む。さらに、酸化を受けて複雑な分子骨格を形成したカテキンオリゴマーの合成も視野に入れて検討を進める。
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