研究課題
本年度に得られた主要な成果について以下に記載する。(1) ニトロゲナーゼFeMo-cofactorのモデルとなる、酸素原子を内包した[Fe8S6O]型クラスターの合成と構造:FeMo-cofactorの基本骨格に類似した[Fe8S7]クラスターの合成反応を発展させ、少量の水存在下での反応から、クラスター中心に酸素原子を持つ新規[Fe8S6O]クラスターを合成した。中心酸素原子は、周囲にある6つの鉄原子のうち4つと結合する一方、残る2つの配位不飽和な鉄原子はチオラート配位子の芳香環と弱く相互作用しており、この結果はFeMo-cofactorの鉄が外部基質を捕捉する機構を考察する有用な知見である。(2) 光化学系II酸素発生中心(OEC)を模倣するMn/O、Mn/OH、およびMn/Ca/Oクラスターの合成:マンガンアミド錯体を前駆体とし、かさ高いアルコキシド/シロキシドを補助配位子に用いる我々独自のクラスター自己集積反応を開拓し、その結果Mn/O, Mn/OH, Mn/Ca/Oクラスターの合成に成功した。特に、融合型不完全キュバン構造のMn4(OH)2(OSiiPr3)6クラスターとカルシウム錯体の反応によって得られたMn4Ca2(O)2 (OSiiPr3)8は、OECの構造に関連して興味深い。(3) ジアミドジチオラート型四座配位子mbeaを利用した、アセチルCoA合成酵素の反応中間体モデル合成:アセチルCoA合成酵素に存在するニッケル二核錯体のモデルとして、実際の酵素に近いテトラアニオン性N2S2配位子mbeaを導入した二核ニッケルモデル錯体の合成を検討した。末端ニッケル上にメチル基とチオラートを併せ持つ錯体の合成に成功し、X線構造解析でその構造が酵素活性中心に極めて類似していることを明らかにした。
1: 当初の計画以上に進展している
今年度は当初予定していた以上の進捗があった。中心にO原子が導入されたニトロゲナーゼFeMo-cofactorの構造モデルの合成に成功するだけでなく、その高精度の構造解析が達成させ、骨格中心の原子がニトロゲナーゼ骨格の構造変化に与える影響が明らかになり、同時に活性中心に基質が配位する機構についても示唆が得られた。光化学系II酸素発生中心のモデルとなるMn/Oクラスターの合成も予定以上のペースで進捗し、次年度以降に実施予定であったCaの導入によるMn/Ca/Oクラスターの合成にも着手した。またアセチルCoA合成酵素モデル研究では、中間体のモデルとなるニッケル二核錯体の合成に成功し、反応機構解明に向けて進捗している。これらの課題に加え、生化学者との共同研究として、金属硫黄クラスターのニトロゲナーゼへの導入を行い、基質還元活性を評価も予定以上に進捗し、[NiFe]ヒドロゲナーゼ、[4Fe-4S]クラスターのモデル合成も同時に進めている。
研究は予定していた以上に進捗し、予定を前倒しして検討を進めて行く。FeMo-cofactor、ヒドロゲナーゼ、光化学系II酸素発生中心、アセチルCoA合成酵素などのモデル研究を進める一方、生化学者との共同研究をさらに深化させ、ニトロゲナーゼのアポタンパクを利用した研究に加え、ニトロゲナーゼ類似構造をもつ酵素であるDPORを利用した人工還元酵素の構築に向けて研究を開始する予定である。
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