研究分担者 |
末光 眞希 東北大学, 電気通信研究所, 教授 (00134057)
佐野 栄一 北海道大学, 量子集積エレクトロニクス研究センター, 教授 (10333650)
末光 哲也 東北大学, 電気通信研究所, 准教授 (90447186)
佐藤 昭 東北大学, 電気通信研究所, 助教 (70510410)
マキシム リズイー 会津大学, コンピュータ理工学部, 准教授 (50254082)
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研究実績の概要 |
グラフェンによる光学励起ならびに電流注入型のテラヘルツレーザー実現に向けて以下を実施した。 光学励起グラフェンレーザー : CVDエピタキシャル成長による高品質単層グラフェン(Si基板上に転写 ; 九大・吾郷准教授提供)をITOミラーで挟んだ縦型Fabri-Perot共振器型構造を改良試作し、ピコ秒高強度赤外線レーザーポンピングによるTHz帯放射スペクトルをフーリエ分光計で測定した。その結、室温下で、2~6THzにおいて増幅を伴う自然放出光の観測に成功した。しかし、誘導放出の観測には至っていない。THz帯誘導放出・レーザー発振の観測に向けて継続推進中である。 電流注入型グラフェンレーザー : Si/SiC/G(グラフェン)/Al_2O_3自然酸化膜のグラフェンヘテロ接合構造にデュアルゲートをスロットラインとして機能させる導波路構造に分布帰還型共振器構造を組み込んだレーザー共振器構造のデバイス試作を行った。トップゲート付のトランジスタ構造において, 極めて高いキャリア移動度110,000㎠/(Vs)を実現し、グラフェンレーザー実現に大きく近づいた[国際会議ISCS2015に採択・口頭発表予定]。 表面プラズモンポラリトン励起による巨大利得 : 前年度考案したグラフェン二重層キャパシタを核とし、その外側両面にゲートスタックを配したグラフェンヘテロ構造体を対象として理論解析を進め、印加バイアスで特定されたプラズモンモード周波数をフォトン発光によってアシストする共鳴トンネルのフォトンエネルギーと同調させることによて、表面プラズモンポラリトンの励起を伴う二重共鳴型のレーザー発振動作が従来のデュアルゲート方式に比して2桁以上の高い利得増強作用が得られることを理論的に発見した[JAP 115, 044511(2014).]。 グラフェンと化学的に最も安定でダメージのない材料として認知されているh-BNを原子4層分トンネルバリア層として導入したグラフェン二十層キャパシタを試作し、その電流電圧特性に予想される負性微分抵抗を低温下ながら観測に成功するとともに、我々が理論発見したフォトン発光でアシストする共鳴トンネル現象の観測に成功し、テラヘルツフォトンの自然放出光観測に初めて成功した。電流注入グラフェンレーザーの実現に大きく前進した[国際会議OTST 2015で発表、CLEO2015に採択・口頭発表予定]。 ボトムアップ型グラフェン成長技術 : Si(110)基板上3C-SiC(111)薄膜の配向成長条件を解明し、その特性を活用した高速回転エピ成長法を開発し、グラフェンの欠陥密度40%低減化に成功した[Mat. Sci. Forum, 740-742, 339(2013) ; ibid. 327(2013)]。G/3C-SiC/Si(GOS構造)のSiC/Si界面へのAlN層挿入とSiC表面平坦化により、G/D比を0.85から4.17へと劇的に増大させ、グラフェン高品質化に成功した[J. Phys. D, 47, 094016, 2014]。Si基板上の微細加工により局所的にGOS構造を形成し、面方位によるグラフェンの物性変調を同一基板上において初めて実現した[Scientific Reports, 4. (2014), 5173]。また、成長用基板表面の欠陥密度制御によるグラフェンの位置選択的成長法を新たに確立した。[J. Phys. D, 47, 094016, 2014]
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
光学励起グラフェンによるレーザー実現に関しては、室温下での増幅自然放出光の観測に成功し、誘導放出成功が期待できる地点まで到達している。 電流注入型レーザーの実現では、トランジスタプロセス技術立ち上げに難航したが、昨年度成果の導波路構造実現の見通しとともに, 今年度は室温下でのテラヘルツ帯利得獲得を実現する上で最も重要かつ困難な課題であったグラフェン本来の秀逸なキャリア輸送特性(巨大キャリア移動度)をトランジスタレベルで実現することに成功し、ハードルは超えた。 さらに、電流注入レーザー発振の実現に必須となる, バンド間遷移に伴う反転分布に比して桁違いに高いキャリア注入効率の実現が可能な研究代表者らが理論発見したゲート制御グラフェン二十層のフォトン発光アシスト共鳴トンネル現象によるテラヘルツ自然放出現象の実験観測に成功するとともに, さらに桁違いに高い利得を実現し得るゲート制御グラフェン二十層による表面プラズモンポラリトン励起によるレーザー発振現象を理論発見していることから、提案・発見した物理現象の"デバイスへの実装"が可能なレベルにまで到達している。これは、H24年度の成果であるグラフェン・金属プラズモニックメタマテリアル構造による巨大利得増強作用とならんで、室温テラヘルツレーザー発振成功を可能にする重大なブレークスルーである。 高品質グラフェン成長技術では基板面方位による積層様式の完全制御、ならびに表面平坦化と領域限定による高品質化を実現できている。以上の点を総合的に勘案した。
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