研究概要 |
半導体材料あるいはデバイス構造中に磁性元素や強磁性材料を構成要素として取り込み、キャリアの電荷輸送に加えてスピン自由度をも活用する新しい機能材料やデバイスを作ることを目的とした研究を行っている。本年度は、H23年度末に導入し、前年度(H24年度)に立ち上げ成長を開始したIII-V族磁性半導体・磁性金属エピタキシャル成長用MBE装置を用いて、不揮発性および再構成可能な機能をもつデバイス作製のための材料形成および物性機能の制御を目指した基礎研究と、デバイス応用に向けた研究を行った。主な成果は下記の通りである。 (1)前年度に初めてn型電子誘起強磁性半導体(In,Fe)Asの作製に成功したが、その研究を展開・発展させ、(ln,Fe)Asの重要な基本的物性を明らかにした:i)電子濃度1x10^<-19>cm^<-3>程度以上で強磁性を示す電子誘起の強磁性半導体である。ii)伝導帯にフェルミ準位が存在し電子キャリアは伝導帯にある。iii)電子の有効質量は電子濃度に依存し(0.03m_0-0.17m_0)InAsと同程度に小さい。iv)s-d交換相互作用がきわめて大きい。 (2)InAs/(In,Fe)As/InAsの三層からなる表面量子井戸構造を作製し、量子サイズ効果を観測するとともに、エッチングによって表面のInAs膜厚を変えることにより、波動関数を動かして強磁性転移温度を制御することにも成功した。強磁性半導体へテロ構造で波動関数工学が可能であることを初めて示した。 (3)III-V族強磁性半導体(Ga,Mn)As量子井戸における共鳴準位を系統的に観測・解析する共鳴トンネル分光法を確立し、(Ga,Mn)Asのフェルミ準位E_Fは従来の通説とは異なり常に禁制帯の不純物バンド中に存在すること、さらに光電子分光を用いて不純物バンドと価電子帯を観測し、われわれの描像が正しいこと、不純物バンドが強磁性発現の起源として重要であることを示した。 (4)IV族べ一ス磁性半導体として有望なFeドープGe薄膜の成長を行い、電気伝導と磁性を詳細に評価しつつアニール温度依存性を調べた。その結果、単一の強磁性半導体相を保ちつつ220Kという今までにない高い強磁性転移温度Tcを実現した. (5)Mnを1%程度添加したGaAs:Mn層およびSi:Mn層をp型電極とした発光ダイオード(LED)を作製し、室温で可視光の電界発光を観測した。これは遷移金属をドープしたIII-V族およびIV族半導体で初めて観測された電界発光の結果であり、磁性半導体のバンド構造と電子状態の理解に貢献するとともに、将来の室温発光デバイスへの応用が期待できる。 (6)Fe電極とSiチャネルをもつマルチターミナルデバイス構造において、FeからSiへのスピン偏極した電子の注入をHanle効果により観測し、三端子測定で観測される巨大なHanle効果シグナルの起源を明らかにした。また、Si-MOSFETと強磁性トンネル接合を組合わせた疑似スピンMOSFET(PS-MOSFET)の作製プロセスを確立し、PS-MOSFETの基本特性を明らかにした。 (7)American Institute of Physics(AIP)が発行するJournal of Applied Physics誌のinvited paper(review)部門が独立したApplied Physics Reviews誌が2014年1月に創刊されたが、その創刊号の招待論文"Recent progress in III-V based ferromagnetic semiconductors : Bandstructure, fermi leve1, and tunneling transport"を執筆し掲載された。[Applied Physics Reviews Vol.1, pp. 011102/1-26(2014)].
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