研究実績の概要 |
半導体材料あるいはデバイス構造中に磁性元素や強磁性材料を構成要素として取り込み、キャリアの電荷輸送に加えてスピン自由度をも活用する新しい機能材料やデバイスを作ることを目的とした研究を行っている。本年度は、H23年度末に導入し、前年度(H24年度)に立ち上げ成長を開始したIII-V族磁性半導体・磁性金属エピタキシャル成長用分子線エピタキシー(MBE)装置を駆使して、不揮発性および再構成可能な機能をもつデバイス作製のための材料形成および物性機能の制御を目指した基礎研究と、デバイス応用に向けた研究を行った。主な成果は下記の通りである。 (1)2011-12年に初めてn型電子誘起強磁性半導体(In, Fe)As薄膜の作製に成功したが、その研究を展開・発展させ、(In, Fe)Asの重要な基本物性と新しい機能を明らかにした : i)超薄膜(In, Fe)As量子井戸を作製し、歪み、量子閉じ込め効果と強磁性の相関を明らかにした。ii)(In, Fe)Asのキュリー温度T_cは歪みに依存し、GaSbバッファ上のわずかな圧縮歪みを与えたときに最大となる。iii)上記の結果は、静水圧変形効果と量子閉じ込め効果を取り入れたs-d交換相互作用により説明できる。iv)(In, Fe)As中のFe原子がもつスピン磁気モーメントと軌道磁気モーメントを明らかにした。 (2)InAs/(In, Fe)As/InAsの三層からなる表面量子井戸構造をもつゲート電極付き電界効果トランジスタを作製し、トランジスタ動作を起こさせ、(In, Fe)As超薄膜を含む量子井戸中の波動関数を動かして強磁性転移温度を制御することに成功した。強磁性半導体ヘテロ構造において電気的手法で磁性を制御すること、低消費電力かつ高速動作が可能な波動関数工学の実現性を初めて示した。 (3)III-V族強磁性半導体(Ga, Mn)Asの光電子分光測定により、そのバンド分散を明らかにした。i)フェルミ準位E_Fは従来の通説とは禁制帯の不純物バンド中に存在すること、不純物バンドと価電子帯を観測し、不純物バンドが強磁性発現の起源として重要であることを示した。ii)(Ga, Mn)AsのMnはMn^<2+>ではなく、Mn^<3+>に正孔が弱く束縛された状態であることを示し、上記の不純物バンド構造と整合する電子状態の描像を明らかにした。 (4)新しいFe添加III-V族強磁性半導体(Ga_<1-x>, Fe_x)Sb(x=3.9%-13.7%)の作製に成功し、p型で真性の強磁性半導体であること、T_cはFe濃度xを増やすとともに上がり、x=13.7%で140Kに達した。 (5)IV族ベース磁性半導体として有望なFeドープGe薄膜の成長を行い、その性質を明らかにした。i)電気伝導と磁性を詳細に評価しつつアニール温度依存性を調べ、単一の強磁性半導体相を保ちつつ210Kという高い強磁性転移温度T_cを実現した。ii)GeFe中のFe分布の不均一性が強磁性の発現に重要な役割を果たすこと、磁化状態の温度依存性のモデルを示した。iii)添加したFeのうち85%程度は格子位置に、残り15%程度は格子間位置にあること、格子位置のFe濃度はT_cに関係はなく、Feの濃度分布の不均一性の方が磁性に重要な影響を与えることがわかった。 (6)Mnを1%程度添加したGaAs : Mn層をp型電極としたトンネル接合型発光ダイオード(LED)を作製し、室温で可視光の電界発光を観測した。磁性半導体のバンド構造と電子状態の理解に貢献するとともに、将来の室温発光デバイスの設計と応用が期待される。 (7)Si-MOSFETと強磁性トンネル接合を組合わせた疑似スピンMOSFET(PS-MOSFET)の作製プロセスを確立し、PS-MOSFETの作製に成功するとともにその基本特性を明らかにした。室温におけるスピントランジスタ動作を示すとともに、シミュレーションによってその特性が再現できることを示した。 (8)GaMnAs/GaAs/GaMnAsからなる縦型構造を有するスピンMOSFETを作製し、そのスピン依存伝導特性を評価した。電流電圧特性を磁化配置及びゲート電界によって制御すること(スピントランジスタとしての動作)に成功し、ゲート電界による変調効果は小さいものの、60%にも及ぶ磁気抵抗比を観測することができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
III-V族磁性半導体、IV族強磁性半導体、および磁性金属エピタキシャル成長用のMBE装置をフルに稼働し、ユニークかつ良質な試料の作製を活発に行っていること、さらにスピンデバイスの構成要素となるIII-V族およびIV族ベースの磁性半導体、半導体と整合性の良い強磁性金属とそのヘテロ構造のエピタキシャル成長による形成、評価、物性制御の研究で多くの成果を挙げつつある。さらに、Si-MOSFETと強磁性トンネル接合を組合わせた疑似スピンMOSFET(PS-MOSFET)の作製に成功するとともにその基本特性を明らかにした。室温におけるスピントランジスタ動作を示すとともに、シミュレーションによってその特性が再現できることを示した。また、GaMnAs/GaAs/GaMnAsからなる縦型構造を有するスピンMOSFETを作製し、そのスピン依存伝導特性を評価し、スピントランジスタとしての動作を示しつつある。基礎的な材料物性研究においては、初めてのn型電子誘起強磁性半導体である(In, Fe)AsをベースとしたInAs/(In, Fe)As/InAsの三層からなる表面量子井戸構造をもつゲート電極付き電界効果トランジスタを作製し、トランジスタ動作を起こさせ(In, Fe)As超薄膜を含む量子井戸中の波動関数を動かして強磁性転移温度を制御することに成功した(電気的手法で磁性を制御すること、低消費電力かつ高速動作が可能な波動関数工学の実現性を初めて示した)。また、当初予定にはない研究成果として、Mnを1%程度添加したGaAs : Mn層およびSi : Mn層をp型電極とした発光ダイオード(LED)を作製し、室温で可視光領域の電界発光を観測したが、最近では。GaAs : Mn層をp型電極としたトンネル接合型発光ダイオード(LED)を作製し、室温で可視光の電界発光を観測した。これは遷移金属をドープしたIII-V族およびIV族半導体で初めて観測された電界発光の成果であり、磁性半導体のバンド構造と電子状態の理解に貢献するとともに、将来の室温発光デバイスへの応用が期待できるものである。
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