研究実績の概要 |
半導体材料あるいはデバイス構造中に磁性元素や強磁性材料を構成要素として取り込み、キャリアの電荷輸送に加えてスピン自由度をも活用する新しい機能材料やデバイスを作ることを目的とした研究を行った。本年度は、III-V族磁性半導体・磁性金属および酸化物のエピタキシャル成長用分子線エピタキシー(MBE)装置を駆使して、不揮発性および再構成可能な機能をもつデバイス作製のための材料形成および物性機能の制御を目指した基礎研究とデバイス応用に向けた研究を行った。主な成果は下記の通りである。 (1) 2011-12年に初めてn型電子誘起強磁性半導体(In, Fe)As薄膜の作製に成功したが、その研究を展開・発展させた。InAs/(In, Fe)As/InAsの三層からなる表面量子井戸構造をもつゲート電極付き電界効果トランジスタを作製し、トランジスタ動作を起こさせ、(In, Fe)As超薄膜を含む量子井戸中の波動関数を動かして強磁性転移温度を制御することに成功した。5x10^<11>cm^<-2>程度のわずかな電子濃度の変化でキュリー温度を42%変化させることに成功した。従来手法より劇的な低消費電力(10^4分の1)かつ高速動作(1ps以下)が可能な波動関数工学の実現性を初めて示した。 (2) n型(In, Fe)As/p型InAsからなるpn接合エサキダイオードを作製し、トンネル分光によって(In, Fe)Asの伝導帯スピン分裂を始めて観測した。スピン分裂の温度依存性および磁場依存性を明らかにした。これにより伝導帯を用いたスピンバンドエンジニアリングの可能性を示した。 (3) 新しいFe添加III-V族強磁性半導体(Ga_<1-x>, Fe_x)Sb (x=0-20%)の作製に成功し、閃亜鉛鉱型結晶構造であること、p型で真性の強磁性半導体であること、T_CはFe濃度xを増やすとともに上がり、x=20%で230Kに達した。これはIII-V族強磁性半導体のT_Cとしては最高値である。さらに、(Ga_<1-x>, Fe_x) SbのT_CはFe濃度xを増やすとともに上がり23%で300K、25%で340Kに達した。これにより室温強磁性半導体の作製に初めて成功した。 (4) IV族ベース磁性半導体として有望なFeドープGe薄膜の成長を行い、その性質を明らかにした。Feの濃度分布の不均一性の方が磁性に重要な影響を与えることがわかっていたが、局所的に室温以上のT_Cを持つ領域が存在することを示した。 (5) Mnを1%程度添加したSi : Mn層をp型電極としたトンネル接合型発光ダイオード(LED)を作製し、室温で可視光の電界発光を観測した。IV族でd-d遷移を用いた発光を観測したのはこれが初めてである。磁性半導体のバンド構造と電子状態の理解に貢献するとともに、将来の室温発光デバイスの設計と応用が期待される。 (6)GaMnAs/GaAs/GaMnAsからなる縦型構造を有するスピンMOSFETを作製し、その基本動作を実証した。電流電圧特性を磁化配置及びゲート電界によって制御すること(スピントランジスタとしての動作)に成功し、60%にも及ぶ磁気抵抗比を観測した。 (7) GsMnAs量子井戸において共鳴トンネル分光を行うことにより、磁性不純物(Mn)の添加により電子の波の乱れが抑制されコヒーレンスが増大する特異な現象を発見した。
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