研究課題
1. 赤痢菌エフェクター機能と標的宿主因子の包括的理解 :1)赤痢菌IpaH7.8エフェクターはマクロファージ感染において、Glomulin蛋白質分解を通じてNLRインフラマソーム活性化と細胞死を誘導した。(2)菌感染において宿主細胞内で菌体より遊離されたDNAは自然免疫に認識され、I型インターフェロン産生により菌の感染を妨げた。これに対し赤痢菌はIpaH5エフェクターを分泌し、自身のE3リガーゼ活性依存的にシグナル因子であるXをユビキチン化、タンパク分解へと導くことでI型インターフェロン活性化を抑制した。(3)IpaH4.5は宿主のプロテアソーム構成因子と結合し、分解することにより、赤痢菌感染においてプロテアソームの活性を制御した。2. 赤痢菌自然感染マウスモデルの開発 :赤痢菌のマウスに対する易感染性に関わる腸内細菌叢および腸内代謝物を探索した結果、抗生物質処理によりマウス腸管内で特定の短鎖脂肪酸Eの量が減少していた。In vitro解析の結果、短鎖脂肪酸Eは赤痢菌の病原性を抑制していたことから、マウス腸管内の短鎖脂肪酸E量が減少することにより病原性抑制が解除され感染が成立する可能性が示唆された。Tecprl-KOマウスでは、ATPの産生、β酸化のレベルの低下によりミトコンドリアの機能変化が見られた。これらが原因で脂肪肝を発症すると考えられた。3. エフェクター機能阻害剤の同定 :これまで赤痢菌のユビキチンリガーゼ(IpaHファミリー)を標的とする阻害化合物を探索し、いくつか阻害化合物を同定した。得られた個々の化合物を細胞に投与し、IpaHの標的基質蛋白質の分解を調べた結果、化合物(X)が基質の分解を阻害した。より良いリード化合物を得るために、IpaH蛋白質と得られた阻害化合物の相互作用および阻害効果を等温滴定型熱量測定、表面プラズモン共鳴法を用いて解析を進めている。
2: おおむね順調に進展している
本研究では、赤痢菌の感染初期に必須なマクロファージ細胞死誘導に係るNLRインフラマソームとしてNLRP3及びNLRC4を同定した。またこれらのインフラマソーム活性化には赤痢菌のE3リガーゼ活性を有するIpaH7.8エフェクターが宿主のGlomulinを標的にしてプロテアソーム依存的に分解することが必要であることを発見した(PNAS 2014)。現在Glomulin分解とインフラマソーム活性化を司る新規分子の同定にも成功している(未発表)。これまでの本研究で解析した一連のE3ユビキチンリガーゼ活性を有する赤痢菌のエフェクター群の研究は、他の病原菌が産生する類似のエフェクターの研究モデルとしても注目され、Nature Review Microbiology(2014), Cells(2014), Cellular Microbiology(2014)から総説を依頼され、本研究の国際的評価が極めて高いことが示された。赤痢菌のマウス自然感染モデルの確立を目指して、前年度ではTecpr-1-KOマウスによる感染モデルとしての必須条件を確立した。今年度は、BALB/cマウスへ抗生剤3剤投与処理により腸内細菌を変動させたマウス腸管下部における菌の定着条件を精査した。その結果、腸内細菌叢が変動したマウス腸管内で腸内細菌から産生される短鎖脂肪酸Eの量が、赤痢菌感受性の原因であることが判明した。興味あることに、短鎖脂肪酸Eの変動は赤痢菌の病原性発現に直接影響することが示唆され、薬剤処理マウスの腸内細菌叢の変動が赤痢菌感受性に及ぼすメカニズムの全貌が見えてきた。論文は未発表であるが、本現象はこれまでに知られていない腸内細菌叢と腸管病原細菌の感染メカニズムにあらたなパラダイムを導く可能性がある。病原細菌のIpaHエフェクターのE3ユビキチンリガーゼ活性を標的とする阻害化合物の探索は、抗生物質の代替創薬をして重要である。これまでに得られた個々の化合物を細胞に投与し、IpaHの基質蛋白質の分解を調べた結果、化合物(X)が基質の分解を阻害した。Xを基にリード化合物を得るために、IpaH蛋白質と得られた阻害化合物の相互作用様式を調べ、最終年度には安定した阻害活性を示す化合物の設計を目指す。
1. 各エフェクタータンパク質の生化学的性状および感染における役割に関する知見を、他の腸管病原菌のエフェクターと比較し、赤痢菌に特異的および他の菌にも普遍的な感染戦略各々を提示する。細菌やウイルス感染において、プロテアソーム活性はMHC class Iによる抗原提示に必須である。赤痢菌感染においてIpaH4.5によるプロテアソーム活性の制御が抗原提示にどのように影響するのか調べる。得られる結果により、赤痢菌が獲得免疫による感染防御を回避し、感染成立させる機構を明らかにすることができると考えられる。2. 確立した赤痢菌自然感染モデルを利用して、プロバイオティクスによる赤痢菌感染抑制効果を調べる。また、研究代表者が以前に作製した赤痢弱毒ワクチン株および研究項目1で機能が明らかにされたエフェクター遺伝子欠損株によるワクチン効果を本モデルで検証する。Tecprl-KOマウスを用いて、肝臓の代謝産物や腸内細菌層の変動を調べ、脂肪肝の発症の原因物質を同定し、どのようにミトコンドリアの異常をもたらすか検討する。3. 得られたリード化合物とIpaHとの共結晶を得て、X線結晶構造解析を行うことにより、阻害の分子基盤を解明する。さらに、得られたX線結晶解析結果を基に、IpaHに対する特異性・阻害活性を高めたリード化合物を設計・合成を目指す。他の病原細菌がコードするIpaHホモログに対してのIpaH阻害剤の抑制活性をin vivo蛍光・発光イメージング方法を用いて確認し、IpaH阻害剤が当該病原細菌の感染成立に与える影響を検討する。幅広い腸管病原細菌に対する治療薬開発を目指す。
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