研究課題/領域番号 |
23000013
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
廣川 信隆 東京大学, 大学院医学系研究科, 特任教授 (20010085)
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研究期間 (年度) |
2011-05-31 – 2016-03-31
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キーワード | KIFs / 細胞内物質輸送 / 微小管 |
研究実績の概要 |
1) 新しいKIFの機能の解析として、以下の成果を得た。Early endosomesは、神経細胞内で細胞体と受容突起内に局在する事が知られていた。私達は、KIF16Bが細胞体及び樹状突起内でendosomeを輸送し、神経細胞内のearly endosomeの局在に必須の働きを有している事を明らかにした。又、KIF16Bの欠損により、AMPA受容体やNGF受容体の輸送と機能が障害され、KIF16Bmotor domainと2番目、3番目のcoiled-coil domainとのATP依存性の結合によりKIF16Bの微小管との結合能が制御される事により樹状突起にのみ局在する事を示し、KIF16Bが、形態形成、極性輸送、シグナル伝達に重要な役割を果たす事を解明した(Farkhondeh et al. J. Neuorsci. 35(12) : 5067-5086, 2015)。 2) GTP型微小管及びGDP型微小管とKIF5C motor domainの結合複合体の高分解能クライオ電子顕微鏡解析を行い、KIF5C motor domainが、GTP型微小管に結合しやすい機序及びKinesinが微小管に結合することによりKinesinおよび微小管双方に構造変化が起こり、これが方向性輸送の基盤となる事を解明した(Morikawa et al. EMBO J. DOI 10.15252/embj.201490588)。 3) KIF13BはLipoprotein Receptor Like Protein 1(LRP1)のカベオリン依存性エンドサイトーシスを促進し, 血中のコレステロール値を制御し、KIF13Bを欠損すると高脂血症となる事を解明した(Kanai et al. J Cell Biol, 204 : 395-408, 2014)。 4) 新しいKIF12は、主に、膵臓と腎臓に発現し、KIF12が膵ベーター細胞で微小管系のスキャフォールドとして転写因子Sp1を安定化し、その下流のHsc70シャペロンの発現を増強することによってペルオキシソームへのマトリックス蛋白の導入効率を高め、酸化ストレスを抑制し、KIF12欠損マウスは2型糖尿病となる事を示した(Yang et al. Dev Cell 31 : 202-214, 2014)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
これまでの研究経過、及び研究成果の発表状況に示されるように、私達の研究は、各研究課題とも順調に発展し、それらの成果は、この分野の非常にインパクトのある国際的なtop journals (Neuron, Dev Cell, Cell Rep, JCB, EMBO J., J. Neurosci.等)に多く発表され、其のカバーとなり(Niwa et al. Dev Cell 2012, Kanai et al. JCB)広く国内外の新聞、雑誌などでも大きく取り上げられ紹介されている。我々の研究成果は、Kinesin superfamily分子モーターによる細胞内物質輸送の分子機構の分子細胞生物学及び構造生物学的解明に留まらず、分子遺伝学的研究を通して、KIF17による記憶・学習の制御や、KIF1Aによる刺激の多い環境下での記憶・学習能力の亢進、さらにKIF5Aと癲癇、KIF13Aと不安神経症や、鬱病、KIF19Aと水頭症、女性不妊症、KIF13Bと高脂血症、KIF12と糖尿病、KIF5と糖尿病、KIF2Aと癲癇など、個体のレベルでの重要な働きとその破綻による疾患の病態生理を明らかにし、さらにKIF12では、その成果を基にした糖尿病の全く新しい切り口の創薬にもつながり、学術的にも社会的にも非常に大きなインパクトのある多くの成果が生まれていると信ずる。この分野では国内外を問わず私達のグループが先導的役割を果たしており、神経科学、分子細胞生物学、生物物理学、構造生物学、を含む生命科学及び臨床医学等の関連分野への波及効果は非常に大きなものがある。平成26年度に行われた研究進捗評価でも“当初目標を超える研究の進展があり、期待以上の成果が見込まれる”(A+)の評価をいただいておりその後も予定以上に研究は進展している。
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今後の研究の推進方策 |
1), A)KIFsの細胞内物質輸送における機能とその制御機構を神経細胞を主なモデル系として解明と3) KIFsの個体レベルでの機能の解明は、同時並行で進める。具体的には、a) KIF1AはTrk A受容体を輸送し、NGFシグナリングを活性化し、その下流におけるTRPV1受容体の活性化に寄与することで侵害刺激に対する応答性を正に制御している。b) KIF1B betaはIGF1受容体を輸送し神経回路網形成に必須の役割を果たす。を中心に進める。1), B)のKIFsのカーゴ認識・結合機構の構造生物学的解明については、KIF5Cについてカーゴ認識部位とモーター領域の相互作用による機能制御に焦点を絞る。1), C)のリン酸化による制御については、KIF2AとKIF3を中心に進め、神経細胞の形態形成と機能の制御について、重要なKinaseを同定し、其の働きの解明を進めている。同時にKIF2Aのリン酸化による機能制御の構造生物学的解析を進めている。2) 一分子動態の可視化については、高速超解像ライブイメージング顕微鏡の開発とそれを用いたモーター分子と微小管の結合反応の細胞内での直接計測に成功しその結果をまとめている。3) の個体レベルでのKIFsの機能解析では、a)KIF26Aが、微小管系のシグナル伝達のスキャフォールドとして、SFK/FAKシグナリングを抑制することにより新しい痛覚過敏のメカニズムを制御する事、b)KIF2Aは海馬歯状回苔状線維発達において時期特異的に神経突起側枝抑制機能を持ち、其の欠損は側頭葉てんかんを起因する事、c)微小管関連蛋白MAP1AはPSD-93を介してNMDA受容体を細胞骨格に繋留し、NMDA受容体の受容突起内での輸送を制御するユニークな機能を持つ事を中心に研究をさらに進める。4) のKIFsの情報伝達因子等としての新しい機能の解明については、KIF3による発生の制御、KIF5Bによる膵臓でのInsulin分泌制御等で非常に興味深い解析が進んでおりそれをさらに発展させる。以上研究は予想を超えて新しい結果が出つつあるので、当初の予定通り研究を推進する。
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