研究課題/領域番号 |
23000014
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
豊島 近 東京大学, 分子細胞生物学研究所, 教授 (70172210)
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研究分担者 |
小川 治夫 東京大学, 分子細胞生物学研究所, 准教授 (40292726)
三村 久敏 東京大学, 分子細胞生物学研究所, 助教 (30463904)
金井 隆太 東京大学, 分子細胞生物学研究所, 助教 (50598472)
椛島 佳樹 東京大学, 分子細胞生物学研究所, 助教 (00580573)
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研究期間 (年度) |
2011-05-31 – 2016-03-31
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キーワード | イオンポンプ / 膜蛋白質 / 結晶解析 / エネルギー交換 |
研究実績の概要 |
(a) 筋小胞体Ca^<2+>-ATPaseの残された中間状態と変異体の高分解能構造決定 : これまでのカルシウム結合状態の結晶はmMカルシウム存在下であったが、生理的に近い濃度での結晶化に成功し、構造を決定した。また、アデノウィルス・COS細胞を用いた高等動物膜蛋白質の大量生産・精製系を確立できた結果、結晶化の対象は大幅に増大した。変異体に関しては、膜内イオン通路のゲートであるE309変異体の複数の状態の結晶化に成功した。特にQ変異体はE2状態で極めて大きな構造変化を起こすこと、膜貫通ヘリックスの配置はM1, M2を除きE2様であるが、細胞質ドメインはE1様であることが明らかになった。一方、心筋のカルシウムポンプであるSERCA2Aの複数の状態での結晶化にも成功した。さらに、電子線結晶構造解析技術の開発を進め、酸性残基の荷電状態を直接的に可視化することに成功し、PNAS誌に発表した。 (b) Na^+, K^+-ATPaseの反応中間体と薬物との複合体の構造決定 : 今年度は多数の強心配糖体との複合体の結晶構造解析を進めた。特に組織特異性を付与することを念頭に解析を進めた結果、ステロイド骨格の僅かな修飾の違いによって糖鎖部分の配置が変わることが判明し、その可能性を開くことができた。また、E2P基底状態の構造決定も進め、予備的結晶を得たが、まだ結晶性の改良が必要である。一方、酸性残基のプロトン化状態を量子力学的計算によって決定した。 (c) 脂質二重膜の可視化 : 溶媒コントラスト変調により、状態によってはカルシウムポンプ結晶中のすべての燐脂質分子のモデリングに成功し、分子動力学的シミュレーションによってその正当性を検証した。一方、Na^+, K^+-ATPase結晶の場合コントラスト変調が不可能であり、重原子クラスターによる位相付けを試みている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
Ca^<2+>-ATPaseに関しては、アデノウィルス・COS細胞系による大量生産・精製系を確立できた結果、予定よりも早く、疾病との関係できわめて重要なSERCA2Aを複数の状態で結晶化・構造決定することに成功した。また、変異体の結晶構造解析にも成功した。さらに、臨床試験段階にある薬物も含め多数の強心配糖体との複合体の構造を高分解能で決定でき、組織特異性を付与する方策も提案できるようになった。
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今後の研究の推進方策 |
心臓病との関連で、SERCA2Aの結晶化と構造決定に成功したことは非常に大きな進展である。その制御因子であるフォスフォランバンの大量生産にも成功したので共結晶化を試みる。変異体の構造解析に関しては、構造的に重要な役割をもつ他の変異体が判明したので、その生化学的研究と構造解析を進める。特にイオン結合部位のプロトン化が重要であることが判明したので、その量子力学的計算を進める。もっとも普遍的に存在するSERCA2Bに関しても、精製方法をほぼ確立できたのでその構造決定を進める。一時的に停止していた、マラリア原虫のイオンポンプに関しても大量生産・結晶化を再開する。Na^+, K^+-ATPaseに関しては、強心配糖体との構造を発表することが直近の目標であるが、ポンプをチャネルに変えてしまう天然物パリトキシンとの複合体など他の状態の構造解析も進める。
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