研究課題
特別推進研究の3年目に当たる平成25年度は、10報の原著論文を発表し、研究は概ね順調に推移した。その主な成果は以下の通りである。第一の柱であるオートファゴソーム形成の分子機構に関して1. 長年未解決であったオートファジーに必須なAtg12-Atg5結合体が、もう一つのユビキチン様タンパク質のAtg8のホスファチジルエタノールアミン結合体形成の促進機能、即ちE2酵素Atg3の活性化の構造基盤が明らかになった。2. オートファゴソーム形成過程におけるAtgタンパク質の空間的位置関係を隔離されるべきカーゴApel強発現させる方法により可視化することに成功した。これによりAtgの微細な局在情報が得られた。3. オートファゴソーム形成の場であるPAS形成の初期過程、即ち飢餓によるAtg1キナーゼを核とする5者複合体の形成過程の初発段階におけるAtg13とAtg1、Atg17との相互作用部位の同定及びリン酸化による制御を明らかにした。4. オートファジーに必須なPI3キナーゼ複合体Iの第5番目のサブユニットとしてAtg38を同定した。第二の柱であるオートファジーの生理機能に関しては、ようやく具体的な成果が得られるステージとなった。1. タンパク質分解として注目されてきたオートファジーによる、細胞質に大量に存在するリボソームの構成成分であるrRNAの異化の分子機構が明らかになった(投稿中)。2. 最小培地で培養された場合、オートファジー欠損酵母細胞は、グルコース枯渇後のエタノールによる好気的な増殖過程に移行できないことが明らかになった。この過程は鉄代謝の異常が主な要因であることが明らかになった(投稿準備中)。3. 亜鉛欠乏がオートファジーを誘導すること、オートファジーによる非選択的なタンパク質分解が亜鉛のリサイクルを通じてその有効利用に働いていることが明らかになった(投稿準備中)。
2: おおむね順調に進展している
本研究課題は、代表者による酵母オートファジーの発見以来、既に4半世紀に亘る研究の集大成である。この間オートファジーの研究に貢献してきたと感じている一方、その完全解明には未だ道半ばであることも自覚している。長年の中心課題であった第一の柱、オートファジーの膜動態の分子機構に関しては、共同研究が有効に働き、長年の蓄積をもとに、膜形成に機能するPASの実態の把握が進み、初期過程の複合体形成の機構解明が進んだ。第二の生理学的解析は、基礎的な培養に関する困難を克服し、新規の計測技術にも習熟し、具体的な成果がで始めている. 残された2年間で酵母のみならず一般性のあるオートファジーの役割に関する提言ができると思われる。近年酵母の系でも国際的にも強力な研究室が参入してきている。またほ乳動物の系に関しても分子機構の解析が進みつっある。私は酵母の研究からオートファジーの基本原理が提唱できることが重要であると考えている。そのためには、一層の構造情報と結合した質の高い分子遺伝学的な解析と、可能な限り新しい実験手法を取り入れることが必須であると考えている。第二の柱に関しても残された時間内で如何に普遍性のあるオートファジーの生理機能に関する研究に結論が得られるかが今後の課題であろう。
我々が進めてきた酵母の系の最も強力な解析手段は、精緻でかつ総合的な変異体を用いたin vivo, in vitroの機能解析である。そのためには、構造情報が不可欠であり、この点では微生物化学研究所、野田展生グループとのタイトな共同研究が不可欠である。細胞内の微量でかつ一過的な相互作用を検出する上で、高度な質量分析が極めて有効であり、横浜市立大学平野久教授との共同研究の推進は今後の展開に重要である。今後も高速AFMなど新しい解析手段を取り入れることも肝要である。膜動態解析にはそれなりの人数の集団で後2年間にまさしく集大成と言える成果を上げることを期している。第2の柱であるオートファジーの生理学的な解析に関しては、過去2年間培養条件の設定に当初の想定以上の時間を要した。しかし一つ一つそれらを克服して、再現性の高い系の確立に成功した。この1年の間に、非選択的なオートファジーによる核酸分解の分子機構を始めて明らかにすることに成功した。細胞増殖過程におけるオートファジーに関しても、鉄代謝、ミトコンドリア、細胞内酸化還元状態などの関わりに関して新規性のある展開が可能となった。そのためにはメタボローム解析、IPCMSによる分析等など定量的な解析の重要性が明確になった。第2の柱は2人のポスドクを中心に進めてきたが、この間メタボローム、ICP MASなどを中心的に担っていたポスドクがこの4月から他の研究機関に職を得たために、やや手薄になっている。後2年間という限られた研究期間で大きく展開できるかは重要な課題であるが、短期の技術員などの雇用と外部との共同研究として推進する方針である。これまで11年に亘って継続してきたオートファジーに関する研究も後2年を残すばかりになり、スタッフ、ポスドクの転出を期待しつつ、その補填が困難な中で課題終了時まで研究の活性を維持できるかが大きな課題である。
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