研究課題
大型類人猿と鯨類を対象にこころの進化における系統発生的制約と環境適応の問題について検討してきた。物理的世界の知覚・認識・理解における身体的制約について、ハンドウイルカを対象に空間認識における自己の身体と環境の座標系との間の相互作用について昨年に引き続き検討を行った。また、チンパンジーを対象に、視野欠損の症状を呈する個体を対象に、視覚的意識の問題と深くかかわる盲視の現象について検討した。さらに、ヒトの乳児とチンパンジーの成体を対象に、運動と形の情報を統合して物体を認識する能力と、その初期発達について検討した。さらにチンパンジーやニホンザルを対象に物理的因果認識の理解について選好注視法などをも言った研究を行った。社会的世界の知覚・認識・理解における制約の相互作用については、チンパンジーやハンドウイルカを対象に身体動作の同調に関する基礎的な実験を継続して行った。その結果、チンパンジーでは外部の聴覚的刺激によるリズムパターンに行動が同調することが明らかとなった。さらに個体間の行動の同調についても検討を進めている。またハンドウイルカやオランウータンを対象に協力行動や向社会的行動の実験的検討を行った。オランウータンでは、向社会的行動が生起しづらいという予備的な結果を得た。さらに、チンパンジーを対象に顔知覚様式の比較認知科学的検討、個体情報の視聴覚統合に関する比較発達研究を行った。これらと並行して、複数の感覚様相間での様々なレベルでの一致現象についてチンパンジーやヒトを対象に検討を行った。一方ハンドウイルカを対象にした認知実験を推進するため、音響タッチパネルの開発を継続して進めている。さらに、これらの飼育下での研究と並行して、野生下及び半野生下のチンパンジー、オランウータン、ミナミハンドウイルカ、シャチなどを対象とした社会行動の観察調査を実施した。
2: おおむね順調に進展している
昨年度整備した研究環境をもとに、着実に成果を得つつある。高知県立のいち動物公園、名古屋港水族館、九十九島水族館、かごしま水族館、京都水族館、須磨海浜水族園などとの研究連携も着実に進めており、今年度は京都大学霊長類研究所と九十九島水族館の間で学術交流協定を締結し、さらなる研究の推進を図った。また、京都大学総合博物館において鯨類研究の企画展示に参加したり、大型類人猿の福祉・保全を考えるSAGAシンポジウムなどに参加することにより、アウトリーチ活動についてもすすめてきた。
次年度は上記の園館との協力体制を維持しつつ、研究を推進して行きたい。特に、イルカ用の反応入力デバイスの開発に引き続き、試用を重ねながら本格運用につなげていきたい。次年度は、本計画で得られた成果をさらにアカデミアや一般の方々に積極的に伝えていく努力もすすめたい。
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