研究課題/領域番号 |
23220007
|
研究種目 |
基盤研究(S)
|
研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
山元 大輔 東北大学, 大学院・生命科学研究科, 教授 (50318812)
|
研究分担者 |
木村 賢一 北海道教育大学, 教育学部, 教授 (80214873)
|
キーワード | 脳・神経 / 発生・分化 / 遺伝学 / 遺伝子 / 細胞・組織 |
研究概要 |
本研究の主たる目的は、行動様式に見られる種差を、特定の遺伝子の変異によってもたらされる神経回路の変容によって、単一細胞レベルで理解することにある。対象とするのは雄の求愛行動である。遺伝的モデル生物であるDrosophila melanogasterをホストに、求愛行動のマスターコントロール遺伝子とされるfruitless(fru)の推定調節配列を同属別種のsubobscuraから移入し、その配列の制御下に神経回路を構築させることで、求愛行動そのものの「種間移植」を試みる。その上で、求愛行動の種差を規定するニューロンを同定し、行動の進化の基盤となる遺伝子と神経回路の変化を特定することが目標である。 今年度はその第一歩として、ゲノム配列情報のないsubobscuraから、fru遺伝子最遠位側プロモータ上流31kbをクローニングし、その塩基配列を確定した。続いてこの推定調節配列の異なる領域に由来する諸断片とGAL4コード配列とを融合させたminigenes(sub fru 5'-GAL4s)を各種作成し、それを持つキイロショウジョウバエ形質転換系統を多数確立した。形質転換にあたっては、ゲノムの任意の位置に挿入の起こるpPTGALベクターの他、ゲノムにあらかじめ組み込まれたAttP siteに挿入の起こるP[acman]ベクターを用いて、導入したsubobscuraの配列の転写活性化能をin vivoでの機能アッセイによって評価した。すなわち、UAS-fruを介して運動ニューロンにFruタンパク質を発現させると、そのニューロンが雄特異的筋肉であるローレンス筋(MOL)を誘導する能力を獲得することを利用して、subfru5'-GAL4の機能評価を行った。野生型melanogaster雄ではA5節にMOLが一対形成されるのに対し、subobscura雄はDrosophila属で唯一、A4とA5にMOLを有することが知られている種である。このアッセイの結果、少なくともpPTGALベクターを用いた形質転換系統の一部でMOLが二対形成され、この手法で神経細胞の種特異的形質を異種に移植可能であることが明らかとなった。今後、さらに行動形質の解析とニューロンでのGAL4発現パターンの検討をすすめてゆく。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
予定していたsubobscura fru 5'配列約31kbのクローニングに成功し、その全長、あるいは部分配列を用いた7種のtransgenesを作製、それをゲノムに挿入した25の形質転換系統の作出を完了した。
|
今後の研究の推進方策 |
subobscura fru 5'配列にGAL4を連結したtransgeneを用いてdTrpA1を強制発現させ、温度条件の制御によってconditionalに発現ニューロンの活性化を引き起こす実験を行う。また、subobscuraのfru 5'配列によってGAL4の発現が起こる細胞のうち、melanogasterにおいても本来fruを発現しているニューロンを選別し、それのみ不活化する実験や、両種に共通してfruを発現するニューロンに限定して活性化する実験等を実施し、それを通じてsubobscuraのfru発現ニューロンとmelanogasterのfru発現ニューロンの機能的異同を解明する。
|