研究課題
本研究は、動物の行動に見られる顕著な種特異性(多様性)が、どのような遺伝子のメカニズムにより、また神経メカニズムにより生み出されるのかを、ショウジョウバエの性行動に着目して解明することを目的としている。Drosophila melanogaster(キイロショウジョウバエ)を用いた研究から、fruitless(fru)遺伝子が性行動を作り出す上で中心的な役割をしていることがわかっているので、性行動様式が種ごとに異なっている要因にfru遺伝子の発現、機能の種差があると推察される。そこで、melanogasterとは明確に異なる性行動様式を示すD. subobscuraからfru遺伝子をクローニングし、その推定発現領域にGAL4を接続したtransgene、sub-GAL4を持つmelanogaster形質転換体を作成して、sub-GAL4発現ニューロンを標識、同定するとともに、それらを強制的に活性化して生ずる行動を解析する。本年度は、subobscuraのfru遺伝子の最遠位側プロモーターから上流約31kbまでのゲノム配列をdriverに用いて温度感受性dTrpA1チャンネルをコードする導入遺伝子をmelanogasterに発現させ、温度シフトを与えて全てのsub-GAL4発現ニューロンを強制的に活性化する実験を行った。その結果、単独で観察容器に入れられたmelanogaster形質転換体の雄個体に一連の性行動が誘導され、melanogasterではほとんど見られずsubobscuraで普通に観察される両側の中脚を前後に振り動かす行動、swingingも繰り返し生じた。すなわち、sub-GAL4により、行動様式の種間移植が部分的に可能であることが明らかになった。
2: おおむね順調に進展している
melanogasterに別種(subobscura)から導入したゲノム断片によって、ドナーの行動様式の一部をホストに“移植”出来ることを示したのは、期待通りの成果であるため。
subobscuraに特徴的なswingingをはじめ、sub-GAL4を用いたニューロンの強制活性化によって生ずる性行動の各要素について、関与するニューロン群を特定することが重要である。そのために、sub-GAL4によってGFPをニューロンに発現させ、可視化する。これらのニューロンがmelanogasterの本来持つfru発現ニューロンとどのように対応するのかを明らかにするため、抗Fru抗体によってfru発現ニューロンを同時に標識する。melanogasterの脳内fru発現ニューロンはすでにマッピングがなされており同定可能であるので、sub-GAL4陽性ニューロンのうちmelanogasterのfru発現ニューロンと相同なもの、相同でないものを識別できるはずである。その結果に基づき、sub-GAL4陽性ニューロンの一部のみを活性化する実験を行い、その行動への寄与を明らかにする。
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