研究課題/領域番号 |
23220007
|
研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
山元 大輔 東北大学, 生命科学研究科, 教授 (50318812)
|
研究分担者 |
木村 賢一 北海道教育大学, 教育学部, 教授 (80214873)
|
研究期間 (年度) |
2011-05-31 – 2016-03-31
|
キーワード | 脳・神経 / 発生・分化 / 遺伝学 / 遺伝子 / 細胞・組織 |
研究概要 |
本研究の到達目標は、種ごとに異なる行動様式がどのような神経回路レベルの変化に根差しているのかを特定し、その神経系の種差を生み出す遺伝的基盤の解明を通じて行動の多様化を導く進化機構を探究することである。平成25年度には、以下の3つのアプローチをとり、それぞれ記載の通りの実績を挙げた。 1. Drosophila subobscuraのfru神経回路をD. melanogasterに移築するアプローチsubobscuraのfru遺伝子の推定制御領域にGal4を接続した人工遺伝子、sub fru5’-Gal4をmelanogasterに導入し、それを用いてdTrpA1を強制発現することで、Gal4発現ニューロンの人為的活性化の効果を検討した。Gal4発現細胞の一括的活性化の結果、subobscuraに特徴的と思われる求愛行動要素が惹起され、さらにMARCMを用いた一部の細胞に限定的な活性化によっても、同様の行動が誘導できた。 2. Drosophila simulansとD. melanogasterの雑種個体の配偶者選択特性の分析遺伝学を縦横に駆使できるD. melanogasterには種間雑種個体の得られる同胞種が存在している。その一つ、simulansの雄は、melanogasterの雌には求愛しない。一方、melanogasterの雄は両種の雌に求愛する。種間雑種雄の配偶者選択を調べたところ、melanogaster雌には求愛しない“simulans型”であることが分かった。さらなる検討の結果、配偶者選択の種差は性フェロモンとして働く体表の炭化水素への反応の違いによって説明できる可能性が示唆された。そこでフェロモン受容ニューロンを標識した結果、種間雑種個体とmelanogasterとの間に相違を見出すに至った。 3. Drosophila subobscuraのゲノム改変による求愛行動の解析D. melanogasterに移築するのではなく、D. subobscuraそのものでの神経回路の解析を可能にすべく、subobscuraでの遺伝子操作を、CRISPR/Cas9によって行うことに着手した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初の予定では、D. melanogasterにsubobscuraのfru推定調節領域を持ち込み、それによってGal4を発現させることによって、subobscura型の神経回路をmelanogasterというheterologousな環境で解析することを主眼としていた。このアプローチによる成果は予定通りに順調に得られている。subobscuraそのもので神経回路を解析することの重要性は自明であるものの、非モデル種のsubobscuraでの解析手法は極めて限られており、当初予定には含めていなかった。しかし、この1-2年のうちにCRISPR/Cas9の応用によって非モデル種の壁が著しく低くなるという予期せぬ状況の変化があり、さっそくsubobscuraを用いた変異誘発を開始して、すでに実用のめどを立てる段階に来た。この予想を超えた展開をもって上記の区分とした。
|
今後の研究の推進方策 |
Drosophila subobscuraのfru推定調節領域をD. melanogasterに導入、発現させてsubobscura型の求愛行動回路をmelanogasterに移築し、この行動を生み出す回路の種差を特定するアプローチでは、鍵となるニューロン群のMARCM法による同定を系統的に進める。対象とするには求愛行動の全ての行動要素を含めるが、なかでもsubobscuraのパターンを特徴づけるlicking、mid-leg swingに力を入れる。subobscuraとの比較で対照となるmelanogasterの対応ニューロンも未知のものが少なくないことから、melanogasterの雌雄で求愛行動制御ニューロンの同定を進める。 simulans/melanogaster種間雑種個体を用いたアプローチでは、雑種雄とmelanogaster雄とで差のある感覚ニューロンからフェロモン応答を記録して、その機能的差異を明らかにすることを目指す。 subobscuraそのものを用いて求愛行動制御回路を解明するアプローチでは、CRISPR/Cas9システムによるfru座のノックアウトを試み、同種でのfru変異体系統作出を目指す。また、劣性可視マーカー変異(white、yellowなど)系統の作出を試み、成功した場合には既存のmelanogasterのtransgeneをこれに挿入する。
|