研究課題/領域番号 |
23220009
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研究機関 | 富山大学 |
研究代表者 |
井ノ口 馨 富山大学, 大学院医学薬学研究部(医学), 教授 (20318827)
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研究分担者 |
岡田 大助 北里大学, 医学部, 講師 (10211806)
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研究期間 (年度) |
2011-05-31 – 2016-03-31
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キーワード | 脳・神経 / 記憶形成 / アップデート / シナプスタグ / セルアセンブリ |
研究概要 |
【1】秒~分~時間の間隔で入ってくる2つの情報の間の連合による書き換え シナプスタグ: FRAP法によるスパイン輸送即ちシナプスタグの可視化法を確立した。輸送活性の分子的性質の解析から、シナプス入力で活性化したプロテインキナーゼGが輸送中のシナプスタンパク質をスパイン輸送に振分ける事を明らかにした。 行動タグ: 新規物体認識(NOR)課題の前後に新規環境へ暴露することで、短期NOR記憶が長期記憶へと変換する行動タグ系において、両者のタイムウィンドウは1時間前後であった。また、行動タグに関わる海馬のセルアセンブリ(セルアンサンブル)を同定した。さらに、新規環境への暴露時に活動するセルアンサンブルとNOR課題時に活動するセルアンサンブルをCatFISH法で解析し、行動タグが成立するケースでは海馬CA1における両者のオーバーラップ率が上昇することを見出した。 パブロフ型恐怖条件付け: CS, USセルアンサンブルを完全に人為的に同期発火させることで、CS-US連合を人工的な方法で作り出すことができた。 【2】日~月の間隔で入ってくる情報間の干渉による書き換え 味覚嫌悪学習(CTA)と音恐怖条件付け(AFC)を別々に学習させた数日後に、両方の課題のCSのみを連続して提示しそれぞれの記憶を連続的かつ交互に想起させることで、本来独立した記憶であったCTAとAFC記憶が連合した。再固定化を阻害すると連合が成立しなかったことより、この連合は再固定化機構を利用していることが明らかになった。さらに、両者の学習に必須である扁桃体のBLA領域において、連続交互想起はそれぞれの記憶に対応したセルアンサンブルの有意なオーバーラップを引き起こした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
次の2点の成果が際立っており当初の目標を超える研究進捗があった。 1. CS-US連合によるアップデート、行動タグによるアップデート、再固定化機構を利用したアップデートのいずれにおいても、2つの記憶エピソードが連合してアップデートされる際に、責任脳領域で、2つの記憶エピソードそれぞれに対応するセルアンサンブルのオーバーラップの増加が認められた。これらの結果から、2つの記憶の相互作用による記憶アップデートに共通するメカニズムとして、このオーバーラップが重要な役割(おそらくは細胞集団レベルのアップデート機構そのもの)を果たしていると想定される。共通原理を明確な仮説として提唱することができたことは、当初の目標を超える大きな進捗である。 2. 2つの記憶エピソードに対応するセルアンサンブル特異的にチャネルロドプシンを発現させ、両者のセルアンサンブルを完全に人為的な方法で活動させることで記憶の人工的な連合に成功した。この成果は、当初の予想を超える進捗である。
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今後の研究の推進方策 |
記憶がアップデートされるメカニズムの共通性を解明するために、CreER-loxP, レンチウイルス遺伝子導入系、光遺伝学などの技術を駆使して、セルアンサンブルのオーバーラップ化を抑制したときに、記憶のアップデートがどのような影響を受けるのかを解析する。ここでは、CS-US連合、行動タグ、再固定化によるアップデートについて解析し、記憶アップデートに共通するメカニズムとしてのセルアンサンブルオーバーラップを検証する。さらに、nVista内視顕微鏡を用いたカルシウムライブイメージング法で、記憶がアップデートする際の海馬ニューロン群の活動状態を解析し、CS-US連合が形成されるときのセルアンサンブ動態を明らかにする。 また、シナプスタグに関しては、光転換蛍光タンパク質で移入を直接観察しFRAP観察の解釈を再検討する。多重蛍光画像による細胞内小器官と輸送の局在関係からシナプスタグの位置を解明する。PKG作用や生化学的性質から候補分子を選定し、RNAiにより関与を確定する。
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