研究課題/領域番号 |
23220011
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研究機関 | 独立行政法人理化学研究所 |
研究代表者 |
小倉 淳郎 独立行政法人理化学研究所, バイオリソースセンター, 室長 (20194524)
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研究分担者 |
阿部 訓也 独立行政法人理化学研究所, バイオリソースセンター, チームリーダー (40240915)
石野 史敏 東京医科歯科大学, 難治疾患研究所, 教授 (60159754)
若菜 茂晴 独立行政法人理化学研究所, バイオリソースセンター, チームリーダー (90192434)
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研究期間 (年度) |
2011-05-31 – 2016-03-31
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キーワード | ゲノム再プログラム化 / マウス / ゲノム可塑性 / 核移植クローン / ES細胞 |
研究概要 |
129系統の体細胞クローン産仔出生率が高いことと、胎盤重量が小さいという特異な表現型を利用して、各リコンビナント近交系のクローン産仔作出を行い、出生率と胎盤重量の解析を行った。仮親への移植胚数は何らかのアクシデントによる発生不良の可能性などを除去するために、各系統500個程度を目標とした。その結果、近交系にも関わらずクローン産仔が得られた6系統と得られなかった3系統が確認された。さらに、これら6系統より得られた産仔の胎盤重量を確認したところ、出産が確認された6系統のうち、重量の小さいものが4系統、大きいものが2系統確認された。すなわち、129型として確実に分類され得る4系統が同定された。これらの結果は、リコンビナント近交系と129を掛け合わせたF1系統についても体細胞クローン産仔の作製でも確認できた。ここまでの結果から、リコンビナント近交系のゲノム多型データベースと一致する領域の絞り込みを行ったところ、全ゲノム上の4ヶ所の領域に限定されることが明らかとなった。染色体上における各領域は1.8-5.2Mbpとごく限られた大きさで、各領域に含まれる遺伝子数は各40-70個程度であるため、候補遺伝子数は200個程に絞り込まれた。そこで、これらの候補染色体が置換されたB6x129コンソミック系統を米国より生体または凍結精巣の形で入手し、ゲノム情報の確認と個体化を開始した。凍結精巣にて導入した個体は、染色体の置換が不完全であったため、F1世代を作出し置換された染色体の分離を行っている。生体にて導入した個体は、SPF施設に導入するため、クリーニングを行っている。何れの方法も、世代期間を短縮するために、顕微授精法を活用している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
23年度から25年度の間、リコンビナント近交系を用いた核移植クローン実験を100回以上積み重ねることにより、129系統ゲノムに隠されている高度可塑化因子の責任領域をゲノム上の4領域にまで狭めることに成功した。これらのうち、8番と19番染色体の2か所が特に有力である。これは、クローン胚の発生率と得られたクローン胎盤の大きさの情報に、B6と129系統および各リコンビナント近交系統の多型情報のデータベースを総合的に判定することにより得られた初の成果である。すなわち、代表研究者の小倉研究室の高度なマウス核移植クローン技術と、分担研究者である阿部研究室の経験豊富なゲノムデータ解析技術の両者の組み合わせが最大限に発揮されたものであり、当初の計画が妥当であったことを示していると考えている。予想されたように、マウスの核移植実験を数多く行うことは時間的にも労力的にも大変な作業であったが、実験回数を増やし、かつ実験者も増やすことで解決した。当初の予定では、ゲノム上の数カ所に絞られた時点で、さらにリコンビナント近交系を作出することも検討されていたが、幸い、米国のCase Western Reserve University に B6 x 129 コンソミック系統が見つかり、担当研究者のご厚意により、必要な系統の輸入が完了した。現在は特に、上記8番と19番染色体のコンソミック系統に絞り、ホモ化を進めている。今後、4領域を1領域に絞り込むことは比較的容易であると予想される。よって、今後も数ヶ月間は核移植クローン実験を続けることになるが、すでに本研究に成功したマウス体細胞クローンの効率化技術(Xist 遺伝子に対する siRNA処理など)が利用できると期待される。
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今後の研究の推進方策 |
まずは、米国より入手したコンソミック系統を目的染色体のホモ化を進め、ホモ化が完成した系統を用いて体細胞クローンを実施する。このホモ化と体細胞クローン実験は、6―8ヶ月程度で終了する予定である。特に8番染色体および19番染色体について実験を進める。すでに染色体上の位置は25年度までに絞り込まれているので、このコンソミック系統を用いた結果により、主要な領域1か所が決定する予定である。領域が決定し、その領域内にある遺伝子の既知の機能から、数個から20個程度の候補遺伝子まで絞り込む。それぞれ B6と129系統間の多型を確認し、産物としてのタンパク質が変化するかどうか考慮しながら、129型の遺伝子型を持つBACトランスジェニックマウスを作出する。そして、これらのマウスの体細胞クローンを行い、129型を示すトランスジェニックマウスの遺伝子を確定する。最終的に絞られた遺伝子候補が、既知であった場合は、129系統特有の変異が入っていると予想される。この場合は、クロマチンの安定化因子が本来の因子であり、そこに変異が入っているために逆に可塑性が増している可能性がある。ゲノム配列情報を元に、その変異を確定する。ただし、これまでの核移植クローン実験では、129を片親に持つF1マウスにおいてもある程度の129表現型を引き継いでいることから、完全な劣性とは考えにくい。新規タンパク質あるいはRNAの場合は、既存のC57BL/6ゲノム情報では不十分な可能性もある。その場合は、領域内の129特異的配列を探し出すためのシークエンスを実施する。また、得られた候補因子からエピジェネティクス修飾を変化させる機構を予測する。最終年度は、上記の実験を継続するともに、各種動物種への応用をめざす。すなわち、CRISPR/Ca9の実験系(すでに確立済み)を129系統由来高度ゲノム可塑化因子の導入に応用する。
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