研究課題
本研究は、3つのサブプロジェクト(SP)からなり、①完新世後期における東アジア夏季モンスーン(EASM)フロント位置変動(揚子江SP)、②揚子江淡水流出量および黒潮強度変動(東シナ海SP)、③偏西風経路及び日本海側降水量変動(水月湖SP)、の復元を目的としている。平成26年度に各SPは、以下の成果を挙げた。①揚子江SPでは、揚子江河口域YD-13地点で採取されたコアの上部10m部分の年代に関する貝化石の14C年代と石英のOSL年代の食い違いを解決する目的で有機炭素の14C分析を行い、年代モデルを確定した。そして、この年代モデルに基づいて石英の供給源変動を復元し、3500~2000年前にかけて、砕屑物の供給源が上流にシフトし、この時期にEASMフロントが北上した事が示唆された。より沖合のMD06-3040コアについても、石英のESR分析を行い、YD-13と同様な結果が得られた。これにより、結果の信頼性が確認された。平成27年3月には、揚子江下流域の砂洲でも掘削を行ない、過去~500年間をカバーする堆積物コア(YD-15)を採取した。このコアの有機炭素14Cおよび石英OSL信号強度に基づく年代モデルを構築中である。②東シナ海SPでは、底生有孔虫殻のMg/Caを測定し、完新世後期における黒潮強度変動を~200年の時間解像度で復元し、誤差評価も行った。また、揚子江河口により近い東シナ海陸だな上(韓国済州島南方)のコア試料を中国側から貰い受け、その年代モデルを構築した。③水月SPでは、過去100年間のダストフラックスを復元し、その変動がアリューシャン低気圧の強さやそれに伴って変動する偏西風の経路と関係している事を示し、論文化した。また、過去100年間について、観測記録を基に洪水層の厚さと短期間降水量の関係を調べ、洪水層の厚さから集中豪雨の強さを推定する方法を開発し、論文化した。
2: おおむね順調に進展している
揚子江SPについては、貝化石の14C年代と石英のOSL年代が大きく異なるという問題があったが、有機炭素の14Cを追加分析することで、再堆積の影響を評価できる可能性が示され問題はほぼ解決した。これにより、YD-13およびMD06-3040において、過去6000年以上に渡る揚子江起源細粒砕屑物の供給源変動復元が完了し、~50年の高時間解像度で論じる事が出来るようになった。また、副産物として、河道内あるいは河口部で一時滞留した後再堆積した砕屑粒子の存在が明らかになり、その寄与率評価法のヒントも見えてきた。また、YD-13の最上部数百年が回収できなかった可能性が高いため、観測記録と比較することを目的として、揚子江下流中洲において、約10mの長さのコア(YD-15)の採取を行った。このコアを分析することにより、当初目的は、すべて達成される見込みである。東シナ海SPは、既に当初の目的をほぼ達成しており、成果もすでに出版されている。更に、揚子江河口により近い東シナ海陸棚中央部のコアを入手し、分析を進めつつある。このコアを分析し、既に得られている結果と比較することで、結論をより確かなものにする事が出来ると期待される。水月SPについては、コアの化学組成や色を基に、洪水堆積物を定量する方法、堆積物中のダスト含有量を推定する方法がほぼ確立した。これにより、過去5千年分のコア試料の高解像度化学分析および粒度分布測定を行う事により、過去~5000年間の集中豪雨の規模・頻度分布や風成塵フラックスの変動の復元が可能になった。風成塵の供給源に関しては、ESRを用いた手法では水月湖集水域起源の砕屑物の影響を十分排除できない事が判り、時間解像度は低いが、日本海のコアを用いた復元を行って、それを用いることにした。この様に、当初の目的はほぼ達成、あるいは達成見込みであり、その進捗状況は順調と言える。
揚子江SPでは、YD-15の年代モデルの構築、石英のESR分析、および観測記録との対比が残っている。この結果をまとめ、論文化すると共に、YD-13およびMD06-3040の分析結果の考察、論文化を行う予定である。東シナ海SPにおいては、過去6000年間の黒潮強度変動に関する論文の執筆・投稿を行う事で当初目的は達成されるが、更に、東シナ海陸棚中央部から得られたコアのMg/Caおよび酸素、炭素同位体比分析を行い、既に論文化されている東シナ海北部のコアの分析結果との比較を行う予定である。水月湖SPにおいては、風成塵フラックスおよび集中豪雨の規模の推定方法を確立することが出来たので、最終年度は過去~5000年間についてXRF, XRD, および粒度の分析を進め、確立した解析法を元に解析を進める予定である。風成塵の供給源変動については、水月湖堆積物に関しては、ESRによる推定は誤差が大きすぎるということが判明したので、日本海コアを用いて、推定を行う予定である。更に3つのプロジェクトの成果を集めて、偏西風強度および経路変動、東アジア夏季モンスーンフロント位置変動、日本列島日本海側における集中豪雨頻度及び強度変動、黒潮強度変動の復元結果を比較し、それら相互のリンクの有無について検証し、その理由を考察する予定である。
すべて 2016 2015 その他
すべて 雑誌論文 (11件) (うち国際共著 3件、 査読あり 10件、 オープンアクセス 4件) 学会発表 (42件) (うち国際学会 16件) 備考 (1件)
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