研究課題/領域番号 |
23221005
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
武田 俊一 京都大学, 医学(系)研究科(研究院), 教授 (60188191)
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研究分担者 |
廣田 耕志 首都大学東京, 理工学研究科, 教授 (00342840)
山田 亮 京都大学, 医学(系)研究科(研究院), 教授 (50301106)
岡田 徹也 京都大学, 理学(系)研究科(研究院), 助教 (70378529)
笹沼 博之 京都大学, 医学(系)研究科(研究院), 准教授 (00531691)
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研究期間 (年度) |
2011-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 有害化学物質 / 化審法 / 遺伝毒物学 / 発がん物質 / 変異原 / 小核実験 / ハイスループットスクリーニング / レギュラトリーサイエンス |
研究実績の概要 |
有害化学物質に関して化学物質審査規制法(化審法)などの法規制がある。化審法で定められた、化学物質の変異原性(発がん性)を検出するバイオアッセイ(小核試験やエームステスト)は、感度と特異性に問題がある。本問題を克服する為に、我々は、化審法で規定された、従来のバイオアッセイに使われている細胞(野生型)に加えて、野生型細胞から作った遺伝子破壊細胞も使う、新しいバイオアッセイを提案する。この手法では、従来のバイオアッセイで測定されたデータ(野生型細胞)と新たに作製した遺伝子破壊細胞で測定されたデータを比較する。そして、例えば、2重鎖切断修復酵素の遺伝子を破壊細胞した細胞が野生型細胞より多くの小核が出現した場合には当該化学物質がDNAに2重鎖切断を作ったと結論する。我々の提案の特徴は、(i)化学物質の有害性を遺伝子(例、2重鎖切断修復酵素遺伝子)で定義する、(ii)過去に蓄積された膨大なデータ(例、野生型細胞の小核試験の結果)を生かせる、の2点である。有害化学物質の検出方法開発の最終目標は、in silicoの手法の開発である。遺伝子で定義した化学物質の有害性は、in silicoの手法開発に必須の学習データに利用できる。 2年前からCRISPRを使って、化審法で使う細胞株(例、ヒトTK6)において遺伝子破壊・点変異導入が効率よくできるようになった。既に30種類のDNA修復酵素遺伝子の破壊細胞や点変異ノックイン細胞を作った。TK6破壊細胞を使って小核試験を実施し変異原性の検出感度を3-5倍向上できた。最終的に100種類以上 DNA修復酵素欠損細胞を創り、変異原性の作用機序(発がん化学物質がどんなDNA損傷が作られ、どんなDNA修復酵素が作用して、損傷がどんな変異に変換されるか)を、100種類以上の細胞の、化学物質に感受性プローフィールを調べることによって解明できるようにする。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
我々の研究目的は「遺伝子破壊した細胞も使う、新しいバイオアッセイを提案する」であった。遺伝子破壊する親株(野生型細胞)としては、遺伝子破壊効率が高いニワトリDT40細胞を当初に想定していた。発がん化学物質が作ったDNA損傷の、変異への変換は、主にDNA複製中におこる。DT40細胞は、細胞分裂周期時間の70%を複製期が占めるが故に、変異への変換効率が非常に高い。この点が評価され、我々がDT40細胞(野生型とDNA修復酵素の遺伝子破壊細胞)を用いて創った変異原性化学物質検出手法は、米国立トキシコロジープログラム(National Toxicology Program(NTP))に採用された(「今後の研究の推進方策」に後述)。一方、DT40細胞を使った発がん化学物質検出手法の弱点は、過去に蓄積された膨大なデータ(例、化審法に採用されているヒト細胞の小核試験の結果)とDT40細胞から得られたデータを直接には比較できないことにある。 2013年にCRISPR法が開発され、従来の手法でDT40細胞の遺伝子を改変するよりもさらに迅速にヒトTK6細胞で遺伝子改変できるようになった。その結果、当初の目標を超えて30種類の遺伝子破壊細胞を作製した。「当初の計画以上に進展している」と判断した理由は、化審法に採用されている細胞で遺伝子改変を迅速に実施するパイプラインを構築できたことにある。その結果、過去に蓄積された膨大なデータ(例、化審法に採用されているヒト細胞(野生型)の小核試験の結果)と遺伝子改変細胞のデータ(例、小核試験の結果)を直接的に比較できるようになった。化審法に定められた小核試験方法で遺伝子改変型細胞を解析したところ、ヒト細胞(野生型)を使った従来の小核試験に比べ、2重鎖切断の検出効率は5倍、DNA鎖間クロスリンクの検出効率は3倍上昇できた。以上の理由から「当初の計画以上に進展している」と判断した。
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今後の研究の推進方策 |
(1)新規に開発した有害化学物質検出手法の妥当性検出 検出手法の妥当性(感度と特異性が十分高いこと)を検定するにはゴールデンスタンダード化学物質のライブラリー(生物作用が非常によく解析された化学物質から成るライブラリー)が必要である。この目的の化学物質ライブラリーを有するのは、世界で米国NTP(前述)のみである。有害化学物質検出手法の開発を目的に、このライブラリーをロボットで解析し、世界中から公募した検出手法の妥当性を検定する研究ができるのも米国NIHのみである。 我々が発明した、DT40細胞を用いた変異原性化学物質検出手法を使い、NTP化学物質ライブラリー(NTP Phase2 library、11,000種の化学物質)を2013-2014年に米国NIHにて解析し、最初の論文(新規に変異原性が見つかった化学物質6種類の解析)を投稿中である。同様の妥当性検定が、我々が発明した、小胞体ストレス誘導化学物質検出試験について2015-2016年に実施することが決まった。米国NIHはγH2AX検出(キット化されている)による変異原性化学物質検出手法の開発を進めている。2015年には、我々が作製済みの遺伝子破壊TK6細胞(DNA修復欠損株)にγH2AX検出法を応用する為の基礎データを準備する。そして米国NIHで妥当性検定を実施してもらうことを目指す。 (2)化学物質の変異原性の作用機序を解析する実験手法の開発 化学物質の構造から変異原性をin silicoに予測する場合には、変異原性の各作用機序毎に予測する必要がある。その理由は、例えば、DNA鎖を切断する化学物質の構造はDNA鎖にクロスリンクを作る化学物質の構造とは異なるからである。(2)の目的達成の為に、DNA修復酵素を欠損した細胞(合計100種類以上)をDT40細胞株のみならずTK6からも創る。
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