研究課題
DNAアダクトーム法はDNA損傷性の判定試験として有用であるが、従来法では100μgのDNA試料が必要で、1サンプルあたりの分析時間も約7時間と長く、実用化の大きな障害になっていた。そこで最新のLC/MS/MSを導入し、プロトコールの見直しを行った結果、必要なDNA量は10μg、分析時間は約80分となり、大幅なスループットの改善が達成された。また、昨年度開発した、イルミナ社の次世代DNAシーケンサーを用いる表現型によらない突然変異検出法についてもデータを蓄積した。さらに、一分子リアルタイムDNAシーケンサー(SMRT)を用いた変異原性試験の実証実験の準備を進めた。さらに、DNA損傷応答可視化細胞を用いた遺伝毒性試験の開発を行った。DNA損傷の指標としてヒストンH2AXのリン酸化が注目されている。我々はリン酸化されたH2AXに特異的に結合するMDC1タンパク質にGFPをつなぎ、DNA損傷応答を簡便に、リアルタイムで検出できるようにした。また画像処理でこの反応を自動計数するソフトウエアも作成した。この方法は、DNA損傷を検出できるだけでなく、カフェインのようにDNA損傷応答を阻害することで染色体異常を誘発する化合物のスクリーニングにも使える。これを用いて、このような活性を持つ化合物をカフェイン以外に2種類発見した。一方、遺伝毒性物質のターゲットを突き止めるためには、複雑な生体分子ネットワークにアプローチする必要があり、このためには主要な生体分子について正確に定量する必要がある。そこで、MRMによる定量的プロテオーム系を構築するため、細胞分裂、DNA修復、細胞死、中心代謝経路などにかかわる約500種類のタンパク質を感度よく測定できるペプチド配列を選別し、内部標準ペプチドを合成した。また、分担者の足立はATPと結合するキナーゼを濃縮し、活性化しているキナーゼのみを効率的にプロテオーム解析する新しい手法を開発した。
1: 当初の計画以上に進展している
当初の研究計画調書に記載した研究を順調に進めている。25年度に導入した最新機種のLC/MS/MSは予想以上に性能がよく、DNA付加体分析に役立つだけでなく、MRMを用いたタンパク質の網羅的定量解析、ヒストン修飾の網羅的定量解析など、当初考えられなかった強力な研究手法が可能になった。DNAアダクトーム法については、大幅な感度向上と分析時間の短縮を達成し、遺伝毒性試験への適用研究、分子疫学的研究、その他メカニズム研究に応用・展開している。表現型によらない突然変異検出法の開発については、SMRTシーケンサーを用いた変異原性試験の実証実験実施のめどをつけた。また、これとは別に、従来の次世代DNAシーケンサーを用いた変異原性試験を開発し、データを積み重ねている。分担者の足立が開発した「活性化タンパクキナーゼの網羅的定量解析」は今後、染色体異常のメカニズムを解明するうえで強力な武器になる。また、前述の「MRMを用いたタンパク質の網羅的定量解析」、「ヒストン修飾の網羅的定量解析」を行うための最適な内部標準ペプチドの合成も完了し、もう一息で分析系が完成する。また、我々が開発した「DNA損傷応答可視化細胞を用いた遺伝毒性試験」は、大規模スクリーニングになじむ系であり、京大医学部が提供しているケミカルライブラリーを利用した研究などに展開できそうである。このように、現時点で予定した研究計画は取りこぼしなく進めるとともに、加えて当初の予想以上の重要な発見や強力でユニークな解析技術が得られている。この調子で研究を展開することにより今後予定以上の成果が期待できる。
DNAアダクトームの実用化:DNAアダクトームの高感度化、迅速化はすでに達成したので、今後は本研究で遺伝毒性を検討するいくつかの化合物に適用すると共に、今までと同様、様々な応用研究を展開し実績を積み上げてゆく。表現型によらない突然変異検出法の開発:サルモネラ菌を用いる次世代DNAシーケンサーによる変異原性試験の技術はすでに確立した。現在、ヒトの代謝酵素GST-T1を組み込んだサルモネラ菌を用いて、ヒト発がんが疑われている有機溶剤の評価に取り組む。SMRTシーケンサーを用いる方法については、26年度早々にパイロット実験に取り掛かり、解析法を完成させたい。染色体異常誘発の分子ターゲット探索法の開発:今までに得られた重要な研究成果をさらに発展させ、DNA修復応答に関するメカニズム研究を堅実に発展させる。一方、他の重要な染色体関連タンパク質の複合体解析も数多く行い、データが蓄積しているので、ここから新たな細胞生物学的研究を展開していく。今までDNA修復チェックポイントについて集中的に研究を進めてきたが、分裂期のスピンドルチェックポイントの破たんも染色体異常につながる重要な標的である。DNA修復チェックポイントおよびスピンドルチェックポイントに関連するタンパク質の選択的阻害剤をいくつか入手しているので、これらが染色体異常を引き起こすかどうかチェックする。染色体異常が確認できたら、これらを暴露した細胞において「活性化タンパクキナーゼの網羅的定量解析」、「MRMを用いたタンパク質の網羅的定量解析」、「ヒストン修飾の網羅的定量解析」を行い、細胞内のタンパク質の挙動を正確かつ網羅的に数値化する。これをパターン認識問題にうまく落とし込み、既知の選択的阻害剤によるタンパク質の挙動を練習セットとした教師付機械学習により、染色体異常誘発の分子メカニズムを分類することに挑戦する。
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