研究課題
①1分子リアルタイムDNAシーケンサーを用いた新しい変異原性試験の開発PacBio RSII DNA sequencerは1分子リアルタイムのシーケンスが可能であるので、原理的にはDNAをただ正確にシーケンスするだけでどんな低頻度の突然変異でも検出することが可能である。しかも任意のDNAサンプルが適用できるので、in vitroおよびin vivoの変異原試験、さらには体細胞突然変異のバイオモニタリングにも応用可能である。そこで変異頻度がわかっているDNAサンプルについて、PacBioシーケンサーで分析を行い、極低頻度の変異検出が可能かどうか検討した。SMRTbellという環状テンプレートを作成し、同じDNA分子を何回も繰り返し読んだ結果、予想通りの変異頻度が検出され、少なくとも10 Mbpあたり数個程度の突然変異であれば、アーティファクトによるバックグラウンドに邪魔されることなく、正確に突然変異を検出できることが明らかとなった。②染色体異常誘発メカニズムの分類に関する研究化学物質の発がん性の予測という観点でみると、染色体異常試験や小核試験の結果は疑陽性が多く、化学物質の安全性評価において問題となっている。染色体異常誘発物質は大きく分けてDNAを直接損傷するものと、染色体の構造維持に重要なタンパク質を阻害するものがある。我々は、DNA損傷応答タンパク質の阻害により染色体異常が誘発されることを見出し、DNA損傷応答の指標である、ヒストンH2AXのリン酸化をLC/MS/MSによりハイスループットに定量する方法を開発した。また、分担者の井倉は、ゲノムストレスに対するヒストンの化学修飾の変化をクロマチン免疫沈降法で解析し、特にTIP60ヒストンアセチル化酵素複合体によるヒストンH2AXのアセチル化がDNA損傷領域で増幅され、この結果、損傷領域のクロマチンを弛緩させることを見出した。
2: おおむね順調に進展している
本研究では革新的な遺伝毒性試験を開発するため、3本柱の研究を展開している。1本目の柱は、DNAアダクトーム法の実用化であり、これについては25年度に大幅な感度向上と分析時間の短縮に成功している。研究の2本目の柱は、1分子リアルタイムDNAシーケンサーを用いた変異原性試験の開発であり、これについては、26年度にパイロット試験に成功した。まだ、前処理法やバイオインフォマティクスで改良の余地はあるが、基本的な骨格は完成したと考えられる。研究の3本目の柱は、DNA損傷を介さない染色体異常誘発メカニズムの検出法開発である。我々は、この一つのメカニズムとして、DNA損傷応答の阻害があることを見出し、これをスクリーニングするための細胞株を開発し、さらに、LC/MS/MSを用いたDNA損傷応答の分析法を開発している。また、染色体異常を誘発するその他のメカニズムについても、様々なタンパク質の特異的阻害剤を用いて研究を展開している。最終的には、染色体異常を誘発する様々な試薬についてその誘発メカニズムの分類を行いたいのであるが、このとき、試薬曝露による細胞内のタンパク質の挙動変化のパターン分類を利用する予定である。そこで、LC/MS/MSを用いたタンパク質定量法を立ち上げ、約500の重要な染色体関連タンパク質と、重要なヒストン修飾について、定量が可能になっている。また分担者の足立は洗練されたリン酸化プロテオームの解析法を開発している。以上述べたように、研究はほぼ予定通り順調に進展している。
1分子リアルタイムDNAシーケンサーを用いた新しい変異原性試験の開発については、バイオインフォマティクス解析手順を見直し、より質の高いデータが簡単に得られるよう改良を進める。また、この方法を適用し、ヒト細胞の変異検出を試みる。まずは、適用が容易なミトコンドリアの変異解析からはじめ、次にゲノム領域の変異解析を試みる。染色体異常誘発メカニズムの分類については、様々なタンパク質阻害剤について、細胞に小核(一種の染色体異常)を誘発する濃度における、染色体関連タンパク質の量の変動、局在変化などについて、LC/MS/MSで定量し、染色体異常誘発の分子メカニズムを考察するとともに、これらメカニズム分類に資するマーカータンパク質を同定する。また、染色体の構造に大きな影響を与えるヒストン修飾の変動についても同様に検討を進める。
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