研究課題/領域番号 |
23221007
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
福井 孝志 北海道大学, 情報科学研究科, 特任教授 (30240641)
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研究期間 (年度) |
2011-05-31 – 2016-03-31
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キーワード | 半導体ナノワイヤ / LED / 太陽電池 |
研究概要 |
結晶成長に関しては、単層グラフェンを基板としてInAsナノワイヤを成長した。またInAs/グラフェン界面の高解像度電子顕微鏡写真と、第一原理計算から、結晶成長初期の核形成の原理がvan der waals力であることを明らかにした。 発光素子応用としては、グリーンギャップを埋める新しい緑色材料として、ウルツ鉱型構造を持つGaPが注目されている。そこで完全なウルツ鉱構造が得られているInPナノワイヤ側面に結晶構造を転写させることによりウルツ鉱構造のAlGaPシェル層を作製した。現在までWZ-InP/AlGaPのコアシェルナノワイヤのカソードルミネッセンスから、緑色発光(約2.3eV)が得られている。 InPナノワイヤ太陽電池に関してはさらに、p-InPナノワイヤにITOを直接つけた簡便な構造を試みた。ITOが透明電極としてのみならず、p型のワイドバンドギャップ半導体の役割も担うため、高効率の太陽電池が得られた。エネルギー変換効率は、7.37%に向上し、量子効率も短波長側では、従来報告されているプレーナ型InP太陽電池よりも優れた値が得られた。 ナノワイヤトランジスタ:シリコン上のInAsナノワイヤを用いて、InAs/Si界面に生じるバンド不連続を介したトンネルFETを作製した。ドレイン電流―ゲート電圧特性は21mV/decと通常モードのトランジスタの理論限界60mV/dicを大幅に下回る世界最高特性のトランジスタが作製された。さらにチャンネル部分のドーピングをn型からp型まで変えることができ、ノーマリーオンとノーマリーオフの両タイプのトランジスタが出来た。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
・結晶成長においては、当初基板として化合物半導体及びシリコンを計画していたが、将来的に実用的なデバイス作りのためには、より大量生産またはプロセスに適した新しい基板の検討が必要と考え、2種類の基板でナノワイヤ成長を新たに試みた。①通常の液晶ディスプレイなどで使われるポリシリコンを基板としたGaAsナノワイヤ成長を行いその成長条件を明らかにした。この論文は、低コストLED作製のための新技術としてNanotechWebで紹介された。②透明電極としても使える単層グラフェン上のナノワイヤ成長をテキサス大学の協力を得て進めた結果、van der Waalsエピタキシという全く新しい結晶成長モードを見出すに至った。論文はいずれも国際的に評価の高い学術誌に掲載され、国際会議の招待講演でも非常に注目された。 ・光デバイス応用では、当初のシリコン上のLEDに加えて、新たに「グリーンギャップ」を埋めるために、新緑色発光材料として結晶構造を人為的に閃亜鉛鉱からウルツ鉱に変えたGaPコアシェルナノワイヤを作製し、25年度に、カソードルミネッセンスから緑色発光を確認した。 ・ナノワイヤの電子デバイスに関しては、当初の計画に入っていなかったが、25年度は目覚ましい進展を見せた。シリコン上の縦型ナノワイヤトランジスタの成果は、すでに被引用回数64回に達しており、北海道大学からの関連するトンネルFETに関するプレス発表では、日本経済新聞を始め7誌に掲載された。 ・予想以上の高い成果発表状況が続いた。特に国際会議等の招待講演が1年間に13件と、国内外から高い評価を受けた。さらに25年度は、特許出願も4件で、この内すでに3件がJSTの支援でPCT出願の手続きを進めており、産業財産権の確保の面でも予定以上の成果が見込まれる。
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今後の研究の推進方策 |
異種基板としては単層グラフェンのような全く結晶系の異なる基板上へのナノワイヤの成長にも成功したが、透明電極としての特性を調べるために、ナノワイヤと単層グラフェンとの間の接触抵抗などの基本的な性質を明らかにする。 発光素子応用では、緑色発光材料として、ナイトライド系に代わる、全く新しいウルツ鉱構造を持つGaP系のナノワイヤLEDを目指す。すでに低温ではあるが、カソードルミネッセンスで緑色発光を確認しており、量子井戸構造などの工夫により、AlGaInPの組成を変えることで、赤緑青の3色の発光を目指す。 ナノワイヤ太陽電池では、基板からのナノワイヤアレイの剥離技術にある程度目途が立ったことから、フレキシブル太陽電池の作製を試みる。基板から剥離したナノワイヤの両面に電極を付けることで、10%程度の発電効率をもつ太陽電池を目指す。剥離技術を用いることで、原料使用効率が3桁向上するなど元素利用効率の著しい向上が図れる。さらに基板の再利用が図れることで、最も微細な工程である選択成長マスクの作製が不要になり、低コスト化で実用化に目途がたつ。また、高効率化を達成するため、まずはGaAs(1.4eV)/InGaAs(1.1eV)の2層タンデム構造の作製と特性評価から始める。年度内に太陽電池特性のうち開放電圧(Voc)が、それぞれの部分の足し合わせになるなどタンデムの効果を明らかにする。 電子デバイス等の新展開では、シリコン上のナノワイヤFETの作製に (001)基板を導入する。結晶学的には(001)シリコン基板に55度傾いた方向にInAsナノワイヤが成長する。結晶成長条件を最適化するとともにデバイスプロセスを確立しトンネルFETを試作する。また、Geをベースとしたpチャンネル形成に向けて、III-VナノワイヤのGe(111)基板上への成長を検討する。
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