本研究の目的は、磁壁や磁気渦の電流誘起スピンダイナミクスを利用した新規省エネルギーデバイスを作製し基本動作を確認することである。具体的には、磁気コアメモリー、レーストラックメモリー、磁壁発振器の3つのデバイスに取り組む。磁気コアメモリーは、磁気コアの向きをビット情報とする不揮発性磁気メモリーであり、電流誘起磁気コア反転を情報書き込みに利用し、磁気コアの向きをトンネル磁気抵抗素子によって読み出す。レーストラックメモリーは、IBMが提案した不揮発性多値メモリーであり、ハードディスクやフラッシュメモリーを省電力と廉価性の面で凌駕する大容量メモリーとして期待されている。磁壁発振器は、電流によって誘起された磁壁の回転運動をマイクロ波に変換するデバイスであり、マイクロ波の周波数を電流密度で制御できる、出力がトンネル磁気抵抗素子への印加電圧で制御できるなどのこれまでのマイクロ波発振器にない特徴を持つ。以下に具体的研究実績を記述する。(1)磁気コアメモリー:今年度までに、トンネル磁気抵抗素子を付加したデバイスを用いて、電流誘起磁気コア反転(情報書き込みに対応)、および電気的磁気コア方向の検出(情報読み出しに対応)に成功し、当初目的を達成した。 (2)レーストラックメモリー:垂直磁化Co/Ni膜を用いて作製した磁性細線において、電流による磁壁の動的制御に成功した。またMgO/Co/Ni膜においては、従来と異なり磁壁が電流方向に移動することを見出した。(3)磁壁発振器:Co/Ni多層膜を50nm程度の細線に加工する技術とその細線に磁壁を導入する技術が確立した。
|